僕の生存日記   番外編2:事件は遊園地裏で起こしてた(第6話裏)

 いよぅ! 俺は『千羽 緋路』!
 今回は、申し訳ないが、愛しの『川野辺 葉乃』の仕事をぶんどり、俺が主役! ナレーションするぞー!
 ――って、え? ただのサイドストーリーだって? あ、そー。
 ん? 他のキャラ? なんかヤクザな先輩の『神成 躍人』とか、愛しの葉乃に近づく魔性の女! 『黒井 姫』とか、葉乃にちょっかい出すとんでもないヤローの『今池 輝也』とかいるらしいぞ。すげーどうでもいい。

 さて、今回のお話は、中間テストが終わった頃まで少しだけ遡る。

 in 千羽家。
「ヒロちゃん〜。中間テストお疲れ様〜」
 テストを終えて学校から帰ってきた俺に、母親が声を掛けてきた。
「あぁ、テストは別に心配ないよ、大丈夫」
 そう答えると、母は言った。
「分かってるわよぅ。そんなヒロちゃんにプレゼントがあるの〜」
「ん?」
「じゃーん!」
 母はポケットから2枚の紙を取り出した。
「遊園地の無料チケットよ〜」
「おぉ。どうしたの、それ?」
「近所の奥さんから貰ったの〜。余りモノらしいけど、もう期限が切れそうなんですって〜」
 母は俺にそのチケットを手渡すと、
「テストも終わったことだし、ヒロちゃんにあげるわ〜」
「ありがとう!」
 俺はそれを喜んで受け取った。

 さて、これをどうすべきか。
 やっぱり! ここは葉乃を誘って……ふふふのふ。
 しかし、あのシャイな葉乃が一緒に行ってくれるか、が問題だ。
「――あ!」
 ここで、さすが俺。イイコトを思いついた。

 中間テストが終わって少しすると今度は梅雨が始まった。まぁ、梅雨の間にいろいろあったけれど(第5話参照)。
 それからまた数日経った放課後――。
「葉乃〜♪」
「……なに? 千羽……」
 愛しの葉乃のクラスに突撃。葉乃はビミョーな表情。切ない。
「じゃぁ、そーゆーことで」
 しかも、あっさり帰ろうとしている!
「ちょっと待ったァァァァ!!!! 葉乃、冷たいゾ!」
 慌てて葉乃の前に立ち塞がる。
 葉乃は溜め息を吐くと、言った。
「いや、プレイヤーの選択肢が『にげる』だったんだよ」
「え? 何の話……?」
 ???? 葉乃がおかしい……。
「で、なんだよ……?」
 葉乃が尋ねてくる。
 俺は表情を戻し、
「おぉ! そう素直に聞いたほうがいいぞ! ほら、これ!」
 母から貰ったチケットを突きつけた。
「……これは――チケット?」
「おぅ」
 葉乃が怪訝そうな顔でそれを見ている。
 そして、次の瞬間。
「すまん。僕にはそんな趣味ないんだ」
「ちっげええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよ!! 俺とじゃなくて、黒井さんと!」
 思わずツッコんでしまう。
 そう。
 最初は一緒に行こうと考えていた遊園地。けれども、俺はここをあの黒井姫に譲ることにしたのだった。
「…………は?」
 葉乃がなんとも間の抜けた表情をする。それはそれでかわいいんだけど。
「……おまえ、いつの間にノーマルになったんだ……? 黒井さんを好きとか……」
 少しの間の後、葉乃が言った言葉がそれだった。
 ――って、なんか勘違いされてる!?
「そーじゃなくて!」
 俺は慌てて言う。
「葉乃、黒井さんと行ってこいよ!」
「…………は?? え……? え、えぇ!!?? ちょ、どうした!? 千羽、おまえ、熱でもあるのか!?」
 優しい言葉にこの返事。
 そこまで言われると、俺もさすがに悲しい。
「シツレーな。俺は、愛しの葉乃のためを思って……」
 そう言うと、戸惑った表情をしながらもチケットを受け取り、
「え、えぇっと……本当に、いいの?」
 もう1度確認された。俺は頷く。
「わ、分かった。行ってくる! ありがとう!」
 次の瞬間には笑顔になる葉乃。やべぇ、かわいい。
 俺は努めて冷静に、
「おう。そうこなくちゃな。チケットの有効期限が近いから、すぐ使えよー」
「うん!」
 そう言って、さっそく黒井姫を誘いに、教室を飛び出す葉乃の後ろ姿を見送った。

 ――これで、第一段階終了。