エンタメクラブ Act.3:初めての活動
「いーち、にーい……」
鬼が100まで数え始める。
それと同時に、逃げる側は一斉に部室から飛び出した。
私はじゃんけんに勝ち、逃げる側となった。
そして、じゃんけんに負けたのは――なんと、森。
着ぐるみ理事長も言っていたけど、この学園は本当に広い。なんたって、高等部だけでも生徒の数は2000人以上。この少子化の時代にどれだけ人集めてるんだか。そういうわけで、鬼ごっこの範囲を高等部の建物内だけに限定したとはいえ、それでもまだまだ、とんでもなく広いのだ。――そんな広い校舎を、たった1人で、みんなを探すなんてかわいそう……。まぁ、1人でも捕まえられれば、後はだんだん楽になるけどね。
でも、ごめんね。今回ばかりは容赦しません。泣かされそうになったんだもん。
――私は勝って、読書を続けてやる。ていうか、森にも読書の素晴らしさをわからせてやる。本って面白いのに。読書が好きじゃない森は、絶対に損してる! まぁ私も、森の好きなスポーツとか……なんで好きなのかわからないから、それと同じもんなんだろうけどさ。でもでも。
そんなふうにぐるぐると考えながら、長い廊下を走る。
――どこに隠れよう?
とりあえず、階段を駆け上がる。
走りながら、私はいろいろなことを思っていた。
――でもさ、思ったんだけど。勝った人が好きなことできるって――これ、鬼ごっこである必要なくない? 最初っからじゃんけんだけでも良かったんじゃ?
――まぁいいか。私は負けない。負けられない。
――あぁ、そういえば、みんなはどこに逃げたんだろう? 同じ部屋から同時に飛び出したのに。考え事をしていたせいか、すっかりみんなを見失ってしまっていた。
現在2階。この階には、3年生の教室が並んでいる。
授業も終わって、もう放課後(部活の時間)とはいえ、3年生の先輩達はまだ何人か教室に残ったり、廊下を歩いていたりした。
――先輩である3年生の教室ばかり。さすがに、この階には隠れられない。
また1段1段、階段を駆け上がる。
学校の構造として、3階は2年生の教室。そして、4階が私達1年生の教室だ。
――さっきと同じ理由で、3階にも隠れられないなぁ。
となると、けっきょくは自分達の教室がある4階、もしくは、職員室や保健室、化学実験室や物理実験室、音楽室などの特別教室や別の科の普通教室(この学校のほとんどは普通科だが、ほかにも国際科や理数科、情報科など様々な学科がある。同じ階にも普通科以外の教室あるけどね)がある1階と5階くらい? でも、特別教室は部活で使っている、もしくは、使っていなくても鍵が掛かっている可能性が高いから、やっぱり4階くらいかな。
そんなわけで、4階へとやって来た。
……こうやって消去法で考えてしまうと、隠れ場所もあっさり見つかってしまいそうな気がする。
きょろきょろと辺りを見回す。
とりあえず――自分の教室?
――容赦しないとか思いつつ、自分の教室とか。1番わかりやすい・探しやすい場所もいーとこだなおい!
そんなこんなで我が1年E組の教室へと飛び込んだのでした。
「笑ちゃんッ!」
「うわ、茜さん……と、草薙 松(くさなぎ しょう)?」
そこには、私やさっき同時に逃げ出した茜さんと小学校から同じ学校で現在クラスメートの『草薙 松』が、茜さんと2人で一緒にいた。ちなみに、松は明るい性格なので、クラスではけっこう人気のあるムードメーカータイプ。お調子者なところがあるので、私からすれば、面白いけれども少し苦手かもしれない。
「てか、茜さん、逃げないの?」
「そ、そりゃあ逃げますよ! じゃあ、そーゆーことでっ!」
「あ、おい、茜!」
ちょっと訊いただけなのに、慌てて教室を飛び出していった。
「松、なにを話してたの?」
なんとなく気になって、私は松に話を聞いてみる。
「や、特になにも。教室に入ってきたから声掛けただけだって。鬼ごっこやってるっつーのは、とりあえず聞いた」
「うん、部活で」
そう答えると、松は驚いた顔で、
「部活? それ、何部だよ……。ていうか、茜、部活入ったのか?」
「うん。ついさっき」
私は頷く。
松は、茜さんが出て行った扉のほうに目をやると、
「そっかー。もうバド部は入らないって、前に言ってたのは聞いたけど、別の部活か。俺も入ろっかな」
「え! 松も!?」
ついつい、驚いて声を上げてしまった。
「てめー嫌そうだな」
「いやいや、ごめん。そういうわけじゃないんだけど……」
おもわず謝る。いや、まさか、また部員が増えるとは思わなくて。
「で、何部なんだよ?」
「……え、『エンターテインメントクラブ』?」
「は?」
その、鳩が豆鉄砲でも食ったかのような顔。
部活名言っただけなのに、なぜか恥ずかしくなる……。
「いやー……なんか、趣味を追求する部活とか、なんとか……」
だんだんと声が小さくなっていく私。気を取り直して。
「と、とにかく、みんなで好きなことをやる部活だよ」
そう言うと、松は、
「んじゃ、学校内でサバゲーでもやろーぜ!」
「さばげーって……」
「サバイバルゲームだよ!」
――ほうほう……。あまりよく知らなくてイメージは湧かないけれど、あれかな? エアガンで打ち合いとかするやつか?
「ほかの部員は?」
松がさらに訊いてくる。
「え? 森とか、葉山とか、あと、同じクラスに山梨 宵ちゃんっているでしょ? 彼女も部員だよ」
って、おもわず答えてしまったけど……。
――ま、まさか、本気で入部する気?
「お、ヒロと愁もいるのか! じゃ、やっぱみんなでサバゲーやろうぜ!」
「本気!? 入るの!?」
「男に二言はない!」
そう答えてガッツポーズする松。
予想外にも、こんなところで部員を1人ゲットしてしまった。――着ぐるみ理事長喜ぶだろうな……。
「――ところで、松って、小学校の頃からサッカー部入ってたよね? 今日部活は?」
…………しーん。
「あぁぁ! 俺、今から部活行くとこだったんだよ! 茜が来たからつい話しちまった! じゃーな!」
大きな声を上げ、彼はまるで嵐のように去っていった。
教室にはまだ数人のグループが残っていたが、みんな、とつぜん何事かと目を丸くして、彼が去っていくのを見送っていた。
「いーち、にーい……」
鬼が100まで数え始める。
それと同時に、逃げる側は一斉に部室から飛び出した。
私はじゃんけんに勝ち、逃げる側となった。
そして、じゃんけんに負けたのは――なんと、森。
着ぐるみ理事長も言っていたけど、この学園は本当に広い。なんたって、高等部だけでも生徒の数は2000人以上。この少子化の時代にどれだけ人集めてるんだか。そういうわけで、鬼ごっこの範囲を高等部の建物内だけに限定したとはいえ、それでもまだまだ、とんでもなく広いのだ。――そんな広い校舎を、たった1人で、みんなを探すなんてかわいそう……。まぁ、1人でも捕まえられれば、後はだんだん楽になるけどね。
でも、ごめんね。今回ばかりは容赦しません。泣かされそうになったんだもん。
――私は勝って、読書を続けてやる。ていうか、森にも読書の素晴らしさをわからせてやる。本って面白いのに。読書が好きじゃない森は、絶対に損してる! まぁ私も、森の好きなスポーツとか……なんで好きなのかわからないから、それと同じもんなんだろうけどさ。でもでも。
そんなふうにぐるぐると考えながら、長い廊下を走る。
――どこに隠れよう?
とりあえず、階段を駆け上がる。
走りながら、私はいろいろなことを思っていた。
――でもさ、思ったんだけど。勝った人が好きなことできるって――これ、鬼ごっこである必要なくない? 最初っからじゃんけんだけでも良かったんじゃ?
――まぁいいか。私は負けない。負けられない。
――あぁ、そういえば、みんなはどこに逃げたんだろう? 同じ部屋から同時に飛び出したのに。考え事をしていたせいか、すっかりみんなを見失ってしまっていた。
現在2階。この階には、3年生の教室が並んでいる。
授業も終わって、もう放課後(部活の時間)とはいえ、3年生の先輩達はまだ何人か教室に残ったり、廊下を歩いていたりした。
――先輩である3年生の教室ばかり。さすがに、この階には隠れられない。
また1段1段、階段を駆け上がる。
学校の構造として、3階は2年生の教室。そして、4階が私達1年生の教室だ。
――さっきと同じ理由で、3階にも隠れられないなぁ。
となると、けっきょくは自分達の教室がある4階、もしくは、職員室や保健室、化学実験室や物理実験室、音楽室などの特別教室や別の科の普通教室(この学校のほとんどは普通科だが、ほかにも国際科や理数科、情報科など様々な学科がある。同じ階にも普通科以外の教室あるけどね)がある1階と5階くらい? でも、特別教室は部活で使っている、もしくは、使っていなくても鍵が掛かっている可能性が高いから、やっぱり4階くらいかな。
そんなわけで、4階へとやって来た。
……こうやって消去法で考えてしまうと、隠れ場所もあっさり見つかってしまいそうな気がする。
きょろきょろと辺りを見回す。
とりあえず――自分の教室?
――容赦しないとか思いつつ、自分の教室とか。1番わかりやすい・探しやすい場所もいーとこだなおい!
そんなこんなで我が1年E組の教室へと飛び込んだのでした。
「笑ちゃんッ!」
「うわ、茜さん……と、草薙 松(くさなぎ しょう)?」
そこには、私やさっき同時に逃げ出した茜さんと小学校から同じ学校で現在クラスメートの『草薙 松』が、茜さんと2人で一緒にいた。ちなみに、松は明るい性格なので、クラスではけっこう人気のあるムードメーカータイプ。お調子者なところがあるので、私からすれば、面白いけれども少し苦手かもしれない。
「てか、茜さん、逃げないの?」
「そ、そりゃあ逃げますよ! じゃあ、そーゆーことでっ!」
「あ、おい、茜!」
ちょっと訊いただけなのに、慌てて教室を飛び出していった。
「松、なにを話してたの?」
なんとなく気になって、私は松に話を聞いてみる。
「や、特になにも。教室に入ってきたから声掛けただけだって。鬼ごっこやってるっつーのは、とりあえず聞いた」
「うん、部活で」
そう答えると、松は驚いた顔で、
「部活? それ、何部だよ……。ていうか、茜、部活入ったのか?」
「うん。ついさっき」
私は頷く。
松は、茜さんが出て行った扉のほうに目をやると、
「そっかー。もうバド部は入らないって、前に言ってたのは聞いたけど、別の部活か。俺も入ろっかな」
「え! 松も!?」
ついつい、驚いて声を上げてしまった。
「てめー嫌そうだな」
「いやいや、ごめん。そういうわけじゃないんだけど……」
おもわず謝る。いや、まさか、また部員が増えるとは思わなくて。
「で、何部なんだよ?」
「……え、『エンターテインメントクラブ』?」
「は?」
その、鳩が豆鉄砲でも食ったかのような顔。
部活名言っただけなのに、なぜか恥ずかしくなる……。
「いやー……なんか、趣味を追求する部活とか、なんとか……」
だんだんと声が小さくなっていく私。気を取り直して。
「と、とにかく、みんなで好きなことをやる部活だよ」
そう言うと、松は、
「んじゃ、学校内でサバゲーでもやろーぜ!」
「さばげーって……」
「サバイバルゲームだよ!」
――ほうほう……。あまりよく知らなくてイメージは湧かないけれど、あれかな? エアガンで打ち合いとかするやつか?
「ほかの部員は?」
松がさらに訊いてくる。
「え? 森とか、葉山とか、あと、同じクラスに山梨 宵ちゃんっているでしょ? 彼女も部員だよ」
って、おもわず答えてしまったけど……。
――ま、まさか、本気で入部する気?
「お、ヒロと愁もいるのか! じゃ、やっぱみんなでサバゲーやろうぜ!」
「本気!? 入るの!?」
「男に二言はない!」
そう答えてガッツポーズする松。
予想外にも、こんなところで部員を1人ゲットしてしまった。――着ぐるみ理事長喜ぶだろうな……。
「――ところで、松って、小学校の頃からサッカー部入ってたよね? 今日部活は?」
…………しーん。
「あぁぁ! 俺、今から部活行くとこだったんだよ! 茜が来たからつい話しちまった! じゃーな!」
大きな声を上げ、彼はまるで嵐のように去っていった。
教室にはまだ数人のグループが残っていたが、みんな、とつぜん何事かと目を丸くして、彼が去っていくのを見送っていた。