エンタメクラブ Act.4:逃亡者
「木谷」
森がまた私を呼ぶ。
涙が溢れて、上手く返事ができない。
それをまた、心配そうな声で呼び続ける。
「木谷。おい、木谷。――起きろ」
――……ん……?
はっとして、私は顔を上げた。
目の前にはグラウンドが広がっていて、サッカー部がまだ練習をしていた。
顔を上げて振り向くと、目の前には森の顔が――
「わああああああああああああ!?」
「な、なんだ!?」
「も、森……!」
驚いて大声を上げてしまった。森が心配そうに私の顔を覗き込む。
「な、なん……」
「木谷。おまえ、泣いて――」
その言葉にはっとして、急いで顔を隠す。
――そうか。夢を見ながら泣いてたんだ……。ヤバイ。恥ずかしい!
「な、なんでもないから!」
慌てて涙を拭い、森のほうに向き直る。
「え、えっと……。って、あ! 鬼ごっこの最中だったんだ!」
いまさら思い出しても遅い。森はがしっと私の腕を掴むと、
「そーゆーわけで。木谷は負けな」
そう言って笑った。
――私は馬鹿だと思う。だって、その笑顔を見られただけで嬉しくなってしまうのだから。
それなのに、とつぜん頭をよぎる。
――『俺、やっぱつまんねーからこの部活辞めるわ』――
夢の中の、彼の言葉を思い出す。
気を抜くとまた涙が出そうになる。そんなふうに言われたくない。――だから、自ら言ってしまった。
「いいよ。辞めても」
森の顔を見ていられなくて、下を向く。
「は?」
森が間抜けな声を出し、私の腕を放した。
苦しいからこそ、相手になにも言われないよう、私は続ける。
「辞めてもいいよ。つまらないんでしょ。森の好きなことやりなよ。わがまま言った私が悪いんだから――」
「おいこら」
私の言葉を遮って、森が怒りのこもった声で発する。
私は一瞬びくっと体を震わせて、おもわず顔を上げてしまった。
――な、なに? 森、怒ってる……?
森は私を見ると、小さく溜め息を吐いてから続けた。
「誰がやめるって言ったんだよ」
「……え?」
「べつにさ、俺の好きなことがやりたいっていうか……。そうじゃなくて、もっと、1人で勝手に悩むんじゃなくて、みんなに相談してくれりゃーいいんだよ。そしたら、もっと面白いことが見つかるかもしれねーだろ?」
森が顔を逸らしながらも、私に向かって手を差し出した。
私がそれをぼーっと見ていると、森は私に視線を戻して、
「だから、その……俺だって一緒にいるし…………」
私は、その差し伸ばされた手をゆっくりと握る。
――森、もしかして、テレてる……?
でも、はっきりと言ってくれた。
――そう。私は1人じゃなかったんだ。
勝手に1人で悩んで、本当に馬鹿みたいだ。最初から助けを求めればよかったんだね。
「森。ありがとう――」
杞憂に終わった夢に、森の手の平の温かさに、私は笑う。
その瞬間――
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り、そして、音楽が流れ始めた。下校の放送が始まる。
その音で我に返る。私は森の手を握ったまま。
とつぜん恥ずかしくなり、ぱっと手を離すとごまかすように、
「……終わっちゃったね。負けちゃった」
森に向かって言った。
2人でベランダを後にしながら、森が言った。
「俺の勝ちだな! ……ってわけでもねーんだよ、実は」
「え?」
「いや、実は、1人見つからなくて――」
「木谷」
森がまた私を呼ぶ。
涙が溢れて、上手く返事ができない。
それをまた、心配そうな声で呼び続ける。
「木谷。おい、木谷。――起きろ」
――……ん……?
はっとして、私は顔を上げた。
目の前にはグラウンドが広がっていて、サッカー部がまだ練習をしていた。
顔を上げて振り向くと、目の前には森の顔が――
「わああああああああああああ!?」
「な、なんだ!?」
「も、森……!」
驚いて大声を上げてしまった。森が心配そうに私の顔を覗き込む。
「な、なん……」
「木谷。おまえ、泣いて――」
その言葉にはっとして、急いで顔を隠す。
――そうか。夢を見ながら泣いてたんだ……。ヤバイ。恥ずかしい!
「な、なんでもないから!」
慌てて涙を拭い、森のほうに向き直る。
「え、えっと……。って、あ! 鬼ごっこの最中だったんだ!」
いまさら思い出しても遅い。森はがしっと私の腕を掴むと、
「そーゆーわけで。木谷は負けな」
そう言って笑った。
――私は馬鹿だと思う。だって、その笑顔を見られただけで嬉しくなってしまうのだから。
それなのに、とつぜん頭をよぎる。
――『俺、やっぱつまんねーからこの部活辞めるわ』――
夢の中の、彼の言葉を思い出す。
気を抜くとまた涙が出そうになる。そんなふうに言われたくない。――だから、自ら言ってしまった。
「いいよ。辞めても」
森の顔を見ていられなくて、下を向く。
「は?」
森が間抜けな声を出し、私の腕を放した。
苦しいからこそ、相手になにも言われないよう、私は続ける。
「辞めてもいいよ。つまらないんでしょ。森の好きなことやりなよ。わがまま言った私が悪いんだから――」
「おいこら」
私の言葉を遮って、森が怒りのこもった声で発する。
私は一瞬びくっと体を震わせて、おもわず顔を上げてしまった。
――な、なに? 森、怒ってる……?
森は私を見ると、小さく溜め息を吐いてから続けた。
「誰がやめるって言ったんだよ」
「……え?」
「べつにさ、俺の好きなことがやりたいっていうか……。そうじゃなくて、もっと、1人で勝手に悩むんじゃなくて、みんなに相談してくれりゃーいいんだよ。そしたら、もっと面白いことが見つかるかもしれねーだろ?」
森が顔を逸らしながらも、私に向かって手を差し出した。
私がそれをぼーっと見ていると、森は私に視線を戻して、
「だから、その……俺だって一緒にいるし…………」
私は、その差し伸ばされた手をゆっくりと握る。
――森、もしかして、テレてる……?
でも、はっきりと言ってくれた。
――そう。私は1人じゃなかったんだ。
勝手に1人で悩んで、本当に馬鹿みたいだ。最初から助けを求めればよかったんだね。
「森。ありがとう――」
杞憂に終わった夢に、森の手の平の温かさに、私は笑う。
その瞬間――
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り、そして、音楽が流れ始めた。下校の放送が始まる。
その音で我に返る。私は森の手を握ったまま。
とつぜん恥ずかしくなり、ぱっと手を離すとごまかすように、
「……終わっちゃったね。負けちゃった」
森に向かって言った。
2人でベランダを後にしながら、森が言った。
「俺の勝ちだな! ……ってわけでもねーんだよ、実は」
「え?」
「いや、実は、1人見つからなくて――」