グローリ・ワーカ   第10章:罠と罪と罰

 アルトを助けるため、魔王城に乗り込んだ一行。
 中に侵入した傍からみんなは姿を消していっていた。
 今、もう残っているのは、マニュア、シリア、アリス、ピュウのみ。
 怯えるアリスに、マニュアは1つ提案をした。
「じゃあさ、今度は手を繋いで行こうよ」
 こうして、マニュアとシリア、シリアとアリスが手を繋いで進む形になった。
 それなのに、数分後――。

「姉さん――アリスさんもいなくなっちゃったんですけど」
 とつぜん思いがけないシリアの言葉。
「えぇ!?」
 マニュアは驚いて振り返った。たしかに、そこにアリスの姿はなかった。
「な、なんで!? シリア、ちゃんと手を繋いでいたんでしょ!?」
 そう問い詰めた直後。
 キイイイイィィィィィィッ……!!!!
 表しようもない高い高い音が、城の中に響き渡った。
「うわ……っ!?」
 思わず蹲るマニュア。
「こ、この音は――?」
 マニュアが誰に訊くでもなく言うと、
「これは――超音波よ。人間には聴こえないけど、魔族には聴こえるの。現在は、それが有効活用できないかが研究されているわ。きっと、これもその研究をしている実験室から流れているのね」
 シリアがマニュアの前に立ちはだかって答えた。
「それで、1つの使い道として、この特殊な音波を聴くとね、魔の心が強くなる――魔族としての心が覚醒するのよ」
「え? シリア――……?」
 音が止まった。
 顔を上げると、シリアが、1度見た歪んだ笑顔でそこにいた。
「まさか、ね――」
「え……?」
「まさかこんな簡単に罠に陥るなんて思ってもみなかったわ。トリヤスたちに誘導されちゃうなんて。せっかく、私が魔王城に連れてこようとパーティに入ったのに、意味なかったじゃん」
 シリアの思いがけない言葉に衝撃が走る。
「姉さんたちを魔王城に誘い出し、バラバラにして、1人ずつ片付ける。いつかは魔王城にやってくるだろうと思ってたけど、レベルの低い今のうちにね」
「そんな……!」
「――姉さんは分かってない。魔族のことを分からず、人間ばかり……」
 シリアが視線を落とした。
「シリア……」
 しかし、次に顔を上げたときには、鋭い目つきで、
「マニュアは分かってない! ミリアを――姉さんを返して!」
「シリア!!」
「ペイン グラント アタック!」
 シリアがマニュアに向け、呪法を放つ。
「うあぁぁっ!!!!」
 これは、傷を付けず、痛み、苦しみだけ与える呪法である。
 マニュアは相当痛がっているが、これでも苦痛系の呪法のうちではまだ弱いものだった。
「でも……っ、痛いん……!」
「フィア エイク ヴァイオレンス ペイン……」
 続けて苦痛系の呪法を繰り出す。それは、だんだんと強くなっていった。
「うわああぁぁっ……!!!!」
(こっ、これ……、マジで……痛い……。死ぬっ……て……)
「姉さん――いえ、マニュア! ミリアを出しなさい。 そうすれば、呪法を止めてあげるわ! 本当の姉さんを出しなさい!! この偽者!!」
 シリアが強い口調で言う。
(ニセ……モ……ノ……?)
「あなたは偽者よ! 姉さんの格好だけをした真っ赤な偽者!!」
「そんなこと――!!」
「アゴニー エイク アブソリュート――」
 怒ったシリアが、更に強力な呪法を放とうとしたときだった!
「ピュウー!!」
 ピュウがシザーバッグから顔を覗かせると、勢いよくシリアの腕に飛びついた。
 シリアはそれを一瞥すると、勢いよく叩き落とした。
「ピ……!」
「ピュウ……!! だめ、逃げて……っ! 早く!」
 マニュアが叫ぶ。
 ピュウは困惑した顔でマニュアとシリアを交互に見た。
 邪魔をされたシリアは、今度はピュウに向けて何か呪法を放とうとしていた。
「いいから……! お願い!」
 マニュアが再度叫ぶと、ピュウは意を決してその場から逃げ出した。
「ふん! あんな動物1匹――」
「――あれは……、毛玉族……だよ」
 シリアに向かってマニュアが言う。
「なにっ!?」
 次の瞬間、シリアの荒げた声と共に、呪法はとつぜん然切れた。
 マニュアは真っ青な顔でその場に崩れ落ちた。
「あれが、毛玉族ですって!?」
 シリアが驚いたように言う。
 マニュアは体を起こしながら、
「そうだよ……。さてはシリア、勉強してなかったな」
「そんなのはどうでもいいのよ! でも、毛玉族はもうすでに――」
 困惑の表情のシリアに、マニュアは言う。
「生き残りがいたんだとしたら、どうする?」
 シリアは目を見開く。だが、すぐに冷めた目つきで、
「――たとえ生き残りがいたとしても、たかだか1匹、どうにもならないわ」
 マニュアは肩をすくめた。
 そして、話を戻した。
「それよりも、シリア――。あなただって、真ぁーっ赤な偽者だよっ!」
「なんですって!?」
 怒るシリアに、マニュアは強く言う。
「シリアはもっと優しいもん! そりゃぁわがままなところもあったけど、そんなじゃなかった!」
 その言葉にシリアは俯いた。
 しかし、次に顔を上げたときには、目に涙を溜めながら叫んだ。
「なにを……! こんなになったのも、あんたのせいなんだからね!!」
「私……の……?」
 その涙に、言葉に、マニュアは少なからずショックを受けて呟いた。
 シリアは、声を、そして気持ちを荒げて続ける。
「そうだよ! なにもかもあんたが悪いんだ! 1人で勝手に家を出て行ったあんたが――私を見捨てたあんたが!!」
 その言葉に――マニュアの頭には、過去の記憶が鮮明に蘇った――。