グローリ・ワーカ   第10章:罠と罪と罰

「あんたなんかに何が分かる!? 分かるもんか! 私の苦しみが!! ……許さない。絶対、許さない!!」
「シリア……」
「――あんたを信じた私がバカだった! ずっと……何年間も、信じ続けて、待ち続けてきたのに……! バ……カ……!!」
 シリアが一筋の涙を流す。


(お姉ちゃん……きっと、いつか、帰ってくるよね……)
 幼いころのシリアは思い続ける。
「ミリアは帰ってこない……。おまえは裏切られたのだ」
 父の声が響く。
(『裏切られた』……!?)
「私は知っている。おまえたちの約束を……」
 その言葉に、母が亡くなった直後の『約束』が頭をよぎる。

『家族3人で頑張ろうね』

「ヤ……ク……ソ……ク……」
「ミリアは帰ってこない!」
(オ姉チャンハ帰ッテコナイ……)
 シリアは自分の頭に一瞬よぎった考えを振り払おうと、必死に頭を振った。
「そんなことない! お姉ちゃんは絶対帰ってくる!!」


 シリアはそんなふうに待ち続けていた自分を思い出した。
(シンジテタノニ……!!)
「お姉ちゃんは……帰ってこない! 帰ってこなかった!」
 声を荒げ続ける。
 マニュアは何も言えず、ただ、シリアを見ていた。
 シリアは急に頭を垂れたかと思うと、正面を向き直し、
「……お姉ちゃん……。そうよ……、今からでも遅くない……」
 疲れきった瞳をマニュアに向ける。そして、手を伸ばしてきた。
「……え……?」
「やり直しましょう……3人で……。私と、お父さんと――ミリアで……」
「……シリアッ!」
「アゴニー エイク アブソリュート ペイン アクチュアリティ……!!」
 苦痛系の呪法でも強力なレベルのものを繰り出してきた!
「うああああぁぁぁぁぁぁ……っっ!!!!」
「マニュア! 消えなさい……。そして、本当のお姉ちゃんを返して!」
 これは、マニュア、大ピィーンチ!?
「シ……リ……ア……」
 声を絞り出すように、マニュアは呼びかけた。
「…………ごめん……」
「えっ……」
 とつぜんの言葉に、シリアの呪文が解けた。
「ゲホ……ッ。……シ……リア……。本当……、ごめん……」
「な……なによ! いまさら謝ったって……!!」
「分かってる……。許してはくれないだろうけど……。でも! シリアのことを忘れたことはなかった!! 約束のことだって……!」
「嘘だッ!!!!」
 マニュアの言葉を遮るように叫ぶ。
「嘘よ! じゃあなんで来なかったの!? 帰ってきてくれなかったの……!?」
「…………行けなかった……」
 マニュアが呟くように答える。
「なに……?」
「行けなかったんだよ! 今、戻ったって、シリアは許してくれないだろうと思ってたの! お父さんだって、怖かった! ……でも、それがいけなかったんだね……。ごめん、シリア……。本当に……」
 涙を流しながら言う。
 それを見て、シリアは少し沈黙した後、
「…………今日は、帰るわ。気分が悪い。でも、次会った時には……あんたを消してみせるから」
 そう一言だけ残し、その場を去っていった。
「シリア!」
 マニュアが呼び止める声も空しく、シリアは城の奥へと姿を消した。