グローリ・ワーカ   第1章:出会い

「やめてください!」

 マニュアの歌がクライマックスに差しかかったとき、その声は聞こえた。
 声の方向を振り返ると、そこには1人の少女がいた。
 歳は、マニュアと同じくらいか。明るいオレンジ色の髪をツインテールにしていて、度の強い眼鏡の奥には垂れ気味のかわいらしい瞳……とここまで書いていて気付いたが、まるで萌えキャラですね。まったく狙っていないのに恐ろしい。
「なんの話!?」
「ダメよぉ、いじめちゃ!」
 彼女は言った。マニュアは慌てて、
「いじめてないよ! この魔物が町を襲うから……!」
「違うよぉ! 怯えてるだけなの! 迷子になって1人ぼっちで怯えてるだけなの……だから――!」
 魔物を庇うようにして立ち、そう叫んだとき、背中を向けた彼女に魔物が襲いかかった。
 魔物の噛みついた肩が、赤く染まっていく。
「い、痛……っ」
「……!! ――大丈夫!?」
 しかし、彼女は魔物を倒そうとはせず、反対に、魔物を静かに抱き締めた。
「大丈夫……今、君の故郷を探しに行ってるよ……」
 彼女がそう呟いたとき、空に大きな黒い鳥が現れた。
「あ、あれは……!」
「魔物だ、うわあー!!!!」
 新たな魔物の出現に、また慌てる町人。
「新しい魔物!? あれは――『ガ・ガアー』か」
 ほんとうに意外で、意外以外の何物でもないが、意外と魔物を知っているマニュア。
「意外言いすぎだ。ちなみに、そこの彼女に噛みついたのは『ウィシュプーシュ』って魔物だけど、たしかに棲み処的には、こんな場所にいるのはおかしいけど……いや、こっちのガ・ガアーも……っと、それよりも、新しい魔物っ!」
 マニュアも再度、攻撃態勢(歌)に入る。
「違いますよ。あれは、私の友達です」
「…………へ?」
 少女のおもいがけない言葉に、おもわず間抜けな声を漏らすマニュア。みんながパニック状態の中で、少女は1人冷静だった。
 彼女は現れた鳥型の魔物――ガ・ガアーに言った。
「ありがとう。見つかったの?」
 ガ・ガアーは静かに頷いた動作を見せると、空を旋回し、着いてこいと言わんばかりに首を振った。
 ティルはそれを確認すると、彼女に噛みついた魔物――ウィシュプーシュを見て、笑顔を浮かべて頷いた。
「大丈夫。君の故郷に、帰れるよ」
 それに、ウィシュプーシュは迷った様子を見せたが、決意したようにダっとガ・ガアーの後について走り出した。
 そして、いっしゅん立ち止まると振り返り、一声鳴いた。「ありがとう」とでも言っているように――
 やがて、2匹の魔物の姿は見えなくなった…………。