グローリ・ワーカ   第7章:呪法

「どーいうこと!?ホワさんが魔族って……!」
 驚きの様子を隠せない皆。
 マニュアは諦めたように溜め息を吐き、言った。
「……そう。私は魔族だよ。…そして、ティル、アルト……貴方達もね」
「「「「え゛ーっ!?」」」」
 その言葉に、ティルの頭の中で何かが繋がった。
「……思い出した…。前に…と言っても、500年前じゃないけど……」
「600年前か!」
 バキッ!!
 ふざけたことを言うストームの頭を、ティルがハリセンで力いっぱい叩いた。
「マジメに聞けっ!」
「あんたもマジメに言えっ!」
 気を取り直して――
「そう……前に、マニュアちゃんが部屋で誰かと話してるのを聞いて……その時、私とマニュアちゃんが魔族って、そんなことを言ってた……」
「何ぃ――っ!?何ですぐに言わなかったぁ!?」
 ストームが詰め寄る。ティルは慌てて、
「その時!マニュアちゃんに記憶を消されてしまったの!」
「「何ぃ!?」」
 ティルの告白に、決心したようにアリスも言う。
「私も……前回…というか昨日、ホワさんに首を絞められたの…。それは、魔族だから…?そのせいだったの?」
 前回とか言うな。
「首って……、おい!!!!ホワイト!それ本当かよ!!」
「マジか!?」
 ストームが怒り心頭で、ヤンは驚きの様子でマニュアを見る。
「ホワさん……」
 アリスは不安な表情。
「本当に、魔族なのか……」
 ニールも……皆、マニュアの方を見た。
 その多くの視線から、マニュアは顔を逸らして答えた。
「ティルは……魔族の血がかなり薄いね。ただ、魔力も魔族としての力も強いみたいだけれど…。アルトは人間と魔族のハーフのようだけど……。私は、完全な魔族だよ」
 こちらを見ないマニュアを見ながら、アルトは言った。
「――私は……私が魔族の血が流れてるってことは知ってた…」
「「えっ!?」」
「そして…ホワちゃんが魔族ってことも……。こう、感じるんだよ、魔族の力を。さすがにティルちゃんは分かんなかったけど」
 マニュアは顔を上げて、ゆっくりとアルトに尋ねた。
「……辛いことはないの?」
「『辛いこと』?」
 他の人は「?」を浮かべながら2人を見た。
 アルトは笑うと、
「ないよ。皆が優しいから…」
「…そっか」
 魔族の血が流れている――そんなことがばれてしまえば、もしかしたら、あのコープスの町の家族のように迫害されていたかもしれない。
 アルトは運が良かったのだろう。
「見た目もそんな人間と変わらないしねー…」
 マニュアはアルトを見ながら言った。
 確かに、アルトの外見からは魔族の血が流れているなんて分からない。それは半分は魔族でも、人間の血も引いているからで、見た目には人間の血が濃く出たということだろう。
 しかし、マニュアは?――完全な魔族であるにも関わらず、姿は人間のものを保っていた。
「そういえば、何でホワちゃんは耳が尖ってないの?肌も、牙も……」
 アルトが尋ねる。
 マニュアは答えた。
「それは――私の意志、だよ」
「へ?」
「私は魔族が嫌いだった…何の罪もない人間を殺す魔族が……。小さい頃は気にも掛けなかった。けど、ある時、気付いたの。魔族の行動に――……」
 マニュアは語り続ける。
「そして私は家出をしたんだ。魔族ってことが嫌で仕方がなくて、ここまで逃げてきた。そして、その時、人間になりたいって何度も強く願ったの。その意志が強かったんだろうね。姿がまるで人間のようになっていたんだ」
 何か会話の内容が偉そうなマニュア。
「おい!!!!」
「ていうか、思うだけでそうなれるもんか……?」
 疑問を浮かべるヤン。
 それは置いておき、ティルが別の質問をする。
「そういえば、『ミリア』って、どういうこと?」
「私の本名だよ。本名は『ミリア・ブラック』」
 答えると、立て続けに皆が質問を投げかけてくる。
 マニュアは柔らかく笑って答えていく。
「名前が変わってるのは…?」
「さっき、昔、家出したって言ったでしょ。その時に出会った今のお母さんに名乗った名前がコレなの。新しい家では幸せだったよ…。でも、ある日、魔王が本格的に責めてきたって知って、そして旅に出たんだ」
「そうなんだ……」
 複雑な事情を聞いてしまい、一瞬、沈黙が訪れる……
「って、そんなことしてる場合じゃねーだろ――――――――!!」
 ニールがツッコんだ。
「ニ、ニール!いつからツッコミに!?」
『はっ!しまった!!私もついついしんみりしてしまった!!』
 父の声までそんなことを言っている!
「…………なんていうかさ、基本的に平和だよね」
 魔族だとか人間だとか――アルトは深く考えないことにした。