グローリ・ワーカ   第8章:攫われた仲間

「もうこれでいいじゃないですか」
 あっさりと言い、シリアはティルの口の中に薬を入れて水を流し込んだ。
「「あっ!」」
「やること早いな、シリア……」
 シリアの隣に回るマニュア。
 暫くすると、咳き込むと同時に、ティルは目を覚ました。
「げほっ、ごほっ……!」
「ティルちゃぁん!!」
「ティ――オレンジ!」
「無事か!?」
 ドドドド……!
「ふぎゃっ!」
 気が付いたティルに、みんなが一斉に駆け寄り、マニュアはみんなに踏み潰された。
「潰すか〜……?」
 ティルの方は、赤くなったり青くなったりしながら体を起こした。
「な、なんか、気管に水が……!?」
 ほら、やっぱり、口移しで薬飲ませないから。
「と、とにかく! 目が覚めれば万々歳じゃないですか!」
 シリアが慌てて拳を作って言う。
「あれ? みんな……?」
 ぼーっとした頭でティルは辺りを見回した。
 ティルの声に、みんなから、わっ! と歓声が上がった。
「良かった〜……!」
 アリスは泣きそうな表情。
「おうっ! 良かったナ! オレンジ!」
「そうだな」
「助かったのか、こいつ……」
 ストームもヤン、ニールも安心した顔。
「ティールちゃぁ〜ん……。しくしく……」
「あれ? マニュアちゃん」
 マニュアはまだみんなに踏んづけられていた。
「あはは……。お目覚め、おめでとー。そして、潰されっぱなしの私にも気付いて……」
「うん、ごめん」
 ティルはマンガのような汗を掻きながら謝った。
「そういえば、なんで私こんなところに……」
「それは、私が説明しましょう!」
 マニュアがみんなの下から這い出して、元気良く手を上げた。
「出た! 説明したがり屋!」
 みんなの言葉も無視で、マニュアは説明を始める。
「キリオミに眠り薬を飲まされたティルちゃん! あわや囚われの身となってしまいそうなところです! しかし! それをニールが――!!」
「だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
 マニュアの言葉を塞ぐニール。
 ティルはきょとんとした表情で、
「『ニールが――!!』?」
 マニュアは面白そうだとにやけつつも、ニールを見て言った。
「分かったよ。言わない言わない。――ま、そーゆーわけで」
「どーゆーわけ?」
「それにしても良かったよね! 目覚め薬があって!」
 アリスが話題を変える。
「そーだな。眠り粉だったら簡単に目が覚めただろーが、眠り薬だからな」
「そーだよね! 眠り薬なんつー強いもん! まぁよくも使ったわなぁ」
「良かったです。ティルさん」
 ヤンやマニュア、シリア、ニールが和気藹々と、ティルと話す。
「ちょぉ〜っと待ったぁ〜〜っ!!」
 ストームが突然叫んだ。
 しーん……。
 辺りが静まり返る。
「――ということは、アルトもその薬飲まされたんだよな。じゃぁ、アルトは――無事なのか……?」
 ストームの真剣な表情に、マニュアは声のトーンを落として答えた。
「……それは、分からない……。……死んでる……か――」
「なんっ――だとっ……!? てめっ! ホワイト!」
 ストームがマニュアに食いかかり、襟首を掴んで、ドンッ! と壁へ押しやった。今にも拳を振り下ろそうとしている。
「おい!」
「やめろよっ!!」
 他のみんながそれを慌てて止める。
「だってな……! こいつ――!」
「私は『死んだ』なんて言ってないよ。『分からない』って言ったの。死ぬ可能性だってあるし、ほっといても目覚める可能性だってないわけじゃないんだから……」
「でもよーっ!!」
 そんなこと言うなんて――!
 納得のいかないストーム。
「そ、それより、ケンカしてるよりも! 早くアルトを取り返しに行かないと!」
 アリスが慌てる。
 マニュアは力強く頷いて、
「うん……! まぁ、とにかく、こちらも疲れた体を休めて明日には出ないとね! さぁ、準備を整えるために買い物行こうっ!」
「うん!」
「おぅ!」
 ストームだけは、相変わらず納得のいかない表情だが、渋々それに従った。本当なら、今すぐにでも助けに行きたいものだ。
 ティルだけは念のためまだ横にさせておくとして、ニールだけ見張りとして置いておき、それ以外のみんなは外へ出ることにした。
 アリスはぼそりと呟いた。
「でも、アイテム、焼けちゃってたりして……」
「う……それは……」
「うん、同感……」