背徳的悦楽

「君って好きな人いる?」

 人が少しずつ捌けていく放課後の教室、彼女の隣の席に勝手に座って、そう声をかけてみる。
 彼女は俺を怪訝そうに見てから、顔を薄い紅色に染めて言う。

「あなたには、関係ないでしょう?」

「誰か当ててみよーか」

 そんな答えなど気にせずに笑ってその名を言ってやる。

「5組の坂崎君」

 彼女は焦って俺を見る。
 顔はいよいよ真っ赤になって、声を荒げる。

「なっ……!? ど、どうして……っ!!」

「あら? マジで当たっちゃった?」

「――〜……っ!」

 からかう俺が嫌なのか、無言で席から立ち上がってどこかへと行こうとする。

「でもさー、趣味悪いよねぇ。坂崎君ってさ、噂によると何股もしてるっていうじゃない? 君もそのうちの1人になりたいわけ?」

 刺激するように続ける。
 彼女は振り向く。

「変なこと言わないでよ! あなたがあの人の何を知っているっていうの!?」

「君よりは知っているつもりだけどなぁ。男の間では有名だけど? 女の間ではどう王子様に映ってるか知らないけどさ」

「もういい! 私、もう帰るんだから!」

 そのまま教室の扉へと向かおうとする彼女の腕を、掴んだ。

「なにっ……!?」

 怒った様子で振り向く彼女の唇を、出し抜けに塞ぐ。
 ――間。

「――……!? なっ、なにするの!?」

「君は、そいつと付き合いたいの? 付き合って何をしたいの? こういうことがしたいの?」

 いつの間にか2人きりの教室で、静かに彼女を抱き寄せた。

「――…………っ!!!! ……っ!!」

 彼女の抗議の声も耳の奥まで届かない。
 ただ、俺の呪縛を必死に振り解こうとする、その表情から伝わってくる。

 そう、それでいい。
 ――あぁ、その君の嫌そうな瞳。
 もっとずっと近くで見ていたいんだ。




 どう見てもチラシの裏の束向けです。本当に(ry これ、Short Storyに入れていいんだろうか……。
 ふっと頭に降りてきたストーリー。なんだろうこれ……。
 そして、珍しくキャラ名が1人だけだけど出てくるという(しかし出番はない)。名前も思いつき。
 なんか変態的になったっていうかこういうのあんまり書いたことなかったような。
 好きな人から嫌がられることに喜びを覚えるという歪んだ主人公。これはドSなのかドMなのか。
 もっと18禁になりそうな気がしたんだけど、そんなことはなくて安心した。
 それと、前回のShort Storyが前過ぎてびっくりした。


――――2013/05/01 川柳えむ