ミス研日誌   20XX年 7月 第2週目

 1学期期末試験最終日、放課後。
「緑山ー!」
「ゲッ……。またおまえか、黒崎……」
「ドクロって呼んでくれって言ってるじゃないか、緑山」
 そう言いながら、大和は緑山と呼んだ男の肩を組んだ。
「えぇい! 呼ばん!」
 明らかにイラつきながら、男は大和の腕を払う。
「おまえの力が必要なのだよ。『緑山 清司(みどりやま せいじ)』」
 そんなことをされても楽しそうに、大和は笑う。
『緑山 清司』――なぜ彼は大和に付きまとわれているのか。
 それは――
「神社の息子なら、ぱぱーっとモノノケとか出せるだろう?」
 ――神社の息子だから。ただそれだけのことだった。
「おまえは神社の息子をなんだと思っているんだ!? そんなことはできん!」
 清司は怒りの表情を向けるが、大和はそんなことはものともしない。
 なにか確信でもあるのか、相変わらずの笑顔を向け、そして、こんなことを言い出した。
「いやいや、知ってるぞ。というか、覚えているぞ。昔、よく――」
「夢でも見たんだろ」
「そんなわけない。しっかりと記憶は残っている。ケガをした痛みも。痕だって残っている」
「――……」
 清司は観念したように瞼を閉じると、ため息を吐き、再び大和を見た。表情は先ほどとは違い、怒りのものではなく、疲れたような――諦めたようなものに変わっていた。
「なにが目的だ?」
「ミス研の新入部員が不思議事件を欲しているのでな。ちょちょいっとなにかモノノケ出してくれないか。なんでもいい」
「おまえ、そんな理由で――!」
 再度怒りの表情に変わる清司。
 しかし、大和は相変わらず笑っている。
「では、来週の月曜に! ミス研へ来てくれ! 入部も大歓迎だぞ!」
「まだやるとは言っていない!」
「待っているぞー!」
「聞け――――――――!!!!」
 笑顔で去っていく大和の後ろ姿を眺めながら、清司は一際大きなため息をついた。