空を見上げるのが好きだった。
 この広い空の下では、自分はなんてちっぽけな存在なんだと気付くことができたから。





  月見酒





 今夜は月見酒と洒落込むかと、深夜のベランダに出て、一人酒を呷った。
 片手につまんだ1枚の絵葉書の端っこに、ライターで小さく火をつけた。それは見る見る燃え上がって、すぐに灰と化した。
 そして改めて見上げて、なんて狭い空なのかと、溜息を吐く。
 ビルに遮られた狭い狭い夜空でも、月は顔を見せてくれていた。
「キレイな月だねぇ」と何事もなかったかのように呟いて、また一口。
 月は昨日とまた少し形を変えて、いつもと同じくそこにあった。都会の空には、星はほんの少しだけで、それでも消えまいと光っていた。

 こんな夜は、物思いに耽ってしまう。
 過去のこと、人生のこと、仕事のこと、恋愛のこと――。
 ベランダの縁に残った燃えカスをちらりと見た。今まさに風が小さく吹いて、それを空へと散らしていった。

 ……たとえ、ここで、これだけ苦しんでいても、誰も気付かない。
 この空の下、こんなちっぽけな存在に、誰が気付こうか?
 自分の苦しみだって、本当の空に比べてみれば、一体どれだけ小さなものだろうか。
 理解っている。理解っているけれど――、

「さよなら」と呟いて、少し、泣いた。

 月は、そんな自分を、優しく照らしていた。




 何で酒なのかって、酒飲みながら書いたからです。


――――2011/10/13 川柳えむ