エンタメクラブ Act.4:逃亡者
「ごめん! 木谷さん! 捕まってくれ!」
「いやだああああぁぁ――――!!」
追いかける葉山。追いかけられているのは私。
2人の追いかけっこが始まっていた。
「いや、俺だって捕まえたくないんだよ? だって、ヒロが勝ってもべつに嬉しくないし。でも、俺、鬼になっちゃったからさ〜!」
そう言いながら追いかけてくる葉山。
階段を駆け下り、廊下を曲がり……メチャクチャに走る。
それにしても、葉山、早い。さすが陸上部。このままではすぐに捕まってしまう! いや、まだ逃げ続けていられるあたり、少しは手加減してくれてるのかな? しかし、その距離もだんだん縮まってきている。
これはやばい。そう感じた私は、走るのを止めずに、息を切らしながら訴えた。
「は、葉山っ……! 森が、勝っても……嬉しくないなら……っ! べつに、私、捕まえなくてもいいじゃんっ! どうせ、もう、葉山、勝てないんだったら……捕まえる、必要、ないじゃない!」
ぶっちゃけ、運動能力はあまりない私。ぜーぜー言いながらも、しっかりと訴えた!
その言葉を聞いた瞬間。ぴたりと。葉山の動きが止まる。
「それもそーだね」
――うを。あっさり!
本当にあっさりと、葉山は私を逃がしてくれた。
自分で訴えてみたものの、ここまで素直に引き下がってくれるのは、正直なところ、予想外だった。
「え、い、いいの……?」
わざわざ訊かなきゃいいのに、立ち止まり、おもわず確認してしまう。
それでも、葉山は頷いて、
「あぁ。俺、ヒロが勝ってもべつに得しないしね。――あ、でも、それで、もし、木谷さんが勝ったら、その――」
「葉山! ありがと!」
私は葉山の返答を聞くと、すぐさま、また走り出した。
「え、あの、木谷さん!」
なんだか、まだなにか言っていた気がするけど――まぁいいか。葉山の気が変わらないうちに逃げ出そう!
振り返らず走り、その場を後にするのだった。
あぁ、しかし――ここはどこだ? えーと、3年の教室が見えるから……2階?
図書館に隠れる予定だったのが、鬼の出現により、気付けば2階まで逃げてきてしまっていた。
――だから、2階には隠れるような場所なんてないんだってば!
「あぁーもう!」
1人で苛立った声を上げ、頭を掻き毟る。
今からまた図書館に戻るべきか。それとも、また新たな隠れ場所を考えるべきか!? 非常に悩む。
とにかく、ここにいても始まらない。
1階か5階か1階か5階か、それとも4階か。えぇい!
私は再度駆け出すと、階段を飛ぶように降りていった。
――悩んでいても仕方がない。だから。片っ端から隠れられる場所を探そう!
そんなわけで、1階へとやって来た。
私が降りたのは職員室前の廊下。……さすがに職員室は有り得ないな……。なにをやっているのかなんて聞かれたくもないし。だって、「鬼ごっこ」なんて答えた日には、「学校でなにやっているんだ」なんて怒られてしまいそうだ。
私はそろりそろりと職員室の廊下を抜けて、ほかの特別教室が並ぶ廊下へと出た。私の立つ場所からは左右に廊下が伸びていて、右手のほうには化学実験室と準備室、物理実験室なんかがある。化学実験室を覗くと扉に付いた磨りガラスの小窓にはうっすらと人影が見え、どうやら、中では科学部がなにやら実験をしているようだった。
怪しいので、中には入らない。
その先の準備室や物理実験室は空いていない。
反対である左手のほうには事務室――は、そーっと通り過ぎて、コンピュータ室がある。中からは「勝った」「負けた」の楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきた。これはたぶん、コンピュータ部がなにかゲームでもしているのだろう。――なに部活で遊んでいるんだ。って、まったく人のことは言えないうちの部だけど。
その向こうには保健室がある。が、私は保健室が苦手だ。とくに理由はないと思う。よく保健室に入り浸っている子の話を耳にすることがあるけれど、なんでそんなに保健室が好きなんだろう? と思う。
――というわけで、ここもだめだ。
あと1箇所、1階にはエンタメクラブの部室もある教室の並ぶ廊下があるけれど、部室以外はこんなことで入れるわけがない進路指導室に……ほかは会議室とか面談室だし、そっちはたぶん開いていない。
これは――1階に来た意味ナッシング!!
また慌てて階段を駆け上る私だった。
「ごめん! 木谷さん! 捕まってくれ!」
「いやだああああぁぁ――――!!」
追いかける葉山。追いかけられているのは私。
2人の追いかけっこが始まっていた。
「いや、俺だって捕まえたくないんだよ? だって、ヒロが勝ってもべつに嬉しくないし。でも、俺、鬼になっちゃったからさ〜!」
そう言いながら追いかけてくる葉山。
階段を駆け下り、廊下を曲がり……メチャクチャに走る。
それにしても、葉山、早い。さすが陸上部。このままではすぐに捕まってしまう! いや、まだ逃げ続けていられるあたり、少しは手加減してくれてるのかな? しかし、その距離もだんだん縮まってきている。
これはやばい。そう感じた私は、走るのを止めずに、息を切らしながら訴えた。
「は、葉山っ……! 森が、勝っても……嬉しくないなら……っ! べつに、私、捕まえなくてもいいじゃんっ! どうせ、もう、葉山、勝てないんだったら……捕まえる、必要、ないじゃない!」
ぶっちゃけ、運動能力はあまりない私。ぜーぜー言いながらも、しっかりと訴えた!
その言葉を聞いた瞬間。ぴたりと。葉山の動きが止まる。
「それもそーだね」
――うを。あっさり!
本当にあっさりと、葉山は私を逃がしてくれた。
自分で訴えてみたものの、ここまで素直に引き下がってくれるのは、正直なところ、予想外だった。
「え、い、いいの……?」
わざわざ訊かなきゃいいのに、立ち止まり、おもわず確認してしまう。
それでも、葉山は頷いて、
「あぁ。俺、ヒロが勝ってもべつに得しないしね。――あ、でも、それで、もし、木谷さんが勝ったら、その――」
「葉山! ありがと!」
私は葉山の返答を聞くと、すぐさま、また走り出した。
「え、あの、木谷さん!」
なんだか、まだなにか言っていた気がするけど――まぁいいか。葉山の気が変わらないうちに逃げ出そう!
振り返らず走り、その場を後にするのだった。
あぁ、しかし――ここはどこだ? えーと、3年の教室が見えるから……2階?
図書館に隠れる予定だったのが、鬼の出現により、気付けば2階まで逃げてきてしまっていた。
――だから、2階には隠れるような場所なんてないんだってば!
「あぁーもう!」
1人で苛立った声を上げ、頭を掻き毟る。
今からまた図書館に戻るべきか。それとも、また新たな隠れ場所を考えるべきか!? 非常に悩む。
とにかく、ここにいても始まらない。
1階か5階か1階か5階か、それとも4階か。えぇい!
私は再度駆け出すと、階段を飛ぶように降りていった。
――悩んでいても仕方がない。だから。片っ端から隠れられる場所を探そう!
そんなわけで、1階へとやって来た。
私が降りたのは職員室前の廊下。……さすがに職員室は有り得ないな……。なにをやっているのかなんて聞かれたくもないし。だって、「鬼ごっこ」なんて答えた日には、「学校でなにやっているんだ」なんて怒られてしまいそうだ。
私はそろりそろりと職員室の廊下を抜けて、ほかの特別教室が並ぶ廊下へと出た。私の立つ場所からは左右に廊下が伸びていて、右手のほうには化学実験室と準備室、物理実験室なんかがある。化学実験室を覗くと扉に付いた磨りガラスの小窓にはうっすらと人影が見え、どうやら、中では科学部がなにやら実験をしているようだった。
怪しいので、中には入らない。
その先の準備室や物理実験室は空いていない。
反対である左手のほうには事務室――は、そーっと通り過ぎて、コンピュータ室がある。中からは「勝った」「負けた」の楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきた。これはたぶん、コンピュータ部がなにかゲームでもしているのだろう。――なに部活で遊んでいるんだ。って、まったく人のことは言えないうちの部だけど。
その向こうには保健室がある。が、私は保健室が苦手だ。とくに理由はないと思う。よく保健室に入り浸っている子の話を耳にすることがあるけれど、なんでそんなに保健室が好きなんだろう? と思う。
――というわけで、ここもだめだ。
あと1箇所、1階にはエンタメクラブの部室もある教室の並ぶ廊下があるけれど、部室以外はこんなことで入れるわけがない進路指導室に……ほかは会議室とか面談室だし、そっちはたぶん開いていない。
これは――1階に来た意味ナッシング!!
また慌てて階段を駆け上る私だった。