エンタメクラブ   番外編1:エンタメクラブ 探偵編

 その日、部活が始まる時間になり……少ししてから、着ぐるみ理事長はやって来た。
 着ぐるみ理事長は部室に入るなり、こう言った。
「今日から『エンタメクラブ』は『探偵部』として生まれ変わります!!!!」
 その瞬間。私の鉄拳が着ぐるみ理事長に炸裂したことは言うまでもない。

「――いったぁ〜!!!!!! ナニすんじゃ、ワレェ!!」
 怒る着ぐるみ理事長。
「ってか、なんなんですか、とつぜん!!??」
「言葉のとーりさっ!!」
「だから、なんで!!??」
「ヒ・ミ・ツ☆」
「…………死にますか?」
 こんなやり取りが延々続く……。
 ……そして、やっと――
「ちっ。しかたないなぁ。ワケを教えるよ〜」
「と・う・ぜ・ん、でしょう!! ワケを言ってくださいよ!!」
 ――ワケを話してくれるかと思いきや。
「笑ちゃん、怒りっぽいなぁ〜。カルシウムが足りないぞ〜。牛乳飲め、ホレ」
 そう言って、着ぐるみ理事長は、(どこから出したのか)牛乳を私の前に置いた。
「……あなたも牛乳嫌いのクセにそーゆーこと言わないでください!」
「って、ナゼその事実を知っている!? ってか、べ、べつにキライなワケじゃないぞ!? ただ、飲むのがスキじゃないだけで!!」
「イヤ、その話はいーから! 本題を……」
「じゃあ、小魚」
「聞け――――――――――――――――――!!!!」

 ……1時間後……。
「『探偵部』になった理由……それは……なんか最近、探偵モノが売れているからだっ!!!!」
「そうかな!?」
「そうだよ!」
「ていうか、う、『売れている』って……そんな安易な理由ですカっ!!!!????」
「悪いか!」
「悪いわ! それに、探偵モノが売れていたのはもうけっこう前で、今は美少女モノとかが売れている気がしますけど!?」
「ここに美少女がいるから! それは大丈夫!」
「誰のことですか!?」
「わ・た・し☆」
「言うと思ったけど、着ぐるみでわかるか――――――――っ! てか、考えてみれば成人してるのに、少女ってのもどうよ!? そもそも、どこが美少女じゃ!!」
「ひどいっ!」
 そしてまた、私達2人の漫才が始まる(ってホントに漫才してるワケじゃないんだけど……)。
 みんなはソレを、「またか」と呆れた様子で見ている……。
「というか、みんなはソレでいいんかい!?」
 私は耐え兼ねてみんなに尋ねた。
「『ソレで』……って?」
 宵ちゃんが尋ね返す。
「だから!『エンタメクラブ』が『探偵部』になっちゃっていいのかってことだよ!!」
 私が言うと、宵ちゃんは――
「べつに、今までだってたいした活動してたワケじゃないんだし? いいんじゃない?」
「いいんかい!! まったくも〜! 森!! 森はいいワケ!?」
 森のほうを向く。
 森は――
「べつに面白そーだし、いーんじゃねぇ?」
「って、おまえも肯定派か!!!!」
「やっぱヒロ君、私と気が合う〜♪」
「……着ぐるみ、殺ス!!」
 私は、本気で手にカッターを……。
「ぎゃ――――――――――!!!! 私は悪くない〜!!」
「元凶が〜!!!!」
「う〜ん。平和だねぇ」
「山梨……。コレって、平和なのか?」
 こんな感じが、私達の日常風景である……。
 ――しかし……『探偵部』って……も〜。ホントにいいのか、ソレで!?
「さてと! まずは探偵の基礎からお勉強だ!!」
「ほ、本気っスか――――――――――――!?」
「いえす」
 あぁ……もう着ぐるみ理事長を止められる自信なんて……ナイ。

「『――ってなワケで。探偵の仕事は8割方が浮気調査なのです』
 『へ〜。そうなんだぁー。お姉さん、物知りだね〜』
 『はっはっはー。それほどでもあるよー』」
 ……着ぐるみ理事長が、どこからか2つの人形を持ち出して、人形劇仕立てで探偵の基礎を教えている。
 ――ってーか。みんな興味がないのか、聞いてないし。だったら、最初から『探偵部』に賛成なんて言うなよ!!
「……というワケで。みんな、探偵の基礎がわかったかな〜!?」
 着ぐるみ理事長がみんなに訊く。
 ハイテンションな着ぐるみ理事長に対して、みんなは――
「は〜い……」
 ――なんとも、やる気のなさそ〜な返事である……。
「……みんな……(涙)」
 着ぐるみ理事長が、ビミョ〜……な涙を浮かべる。
 ――みんな、やる気ないって理解した?
「……わかってくれたのね――――――――――――――――――――!!!!!!!!」
「「「「って、違うし!!!!」」」」(←着ぐるみ理事長以外の人々のハモリ)
「みんな、けっきょくやる気ないんだってば――!」
「誰がそんなこと言った!?」
「みんな、思ってるんだって! わかってるでしょー!?」
 またもや、私達の言い合いが始まる……。

 そんな私達が言い合っている横。森と葉山がなにか話し合っているのが視界の端に映った。
「……愁。アレ、なんとかなんねぇ?」
「なんとかって……ツッコミはヒロの役目だろ?」
「本来、俺って、ツッコミじゃねーんだけど?」
「うーん……。ヒロ。俺、探偵になるには、重大な要素が必要だと思うんだけど……」
「? なんだ?」

「理事長」
「ん? なに? ヒロ君」
 森が、とつぜん着ぐるみ理事長に話しかけた。
「……どーしたの? 森」
「俺達が思うに……。探偵になるのは、俺達じゃちょっとムリだ」
 その言葉に、着ぐるみ理事長(の猫の着ぐるみ)の目が据わった。
「なんで?」
 森はきっぱりと言った。
「探偵の傍では、殺人事件が頻繁に起きる!!!!」
「――――――……!!」
「俺達の周りじゃ、そんなことねーしよぉ。ムリだろ」
 ……着ぐるみ理事長は真っ白になった……。

 ……けっきょく、『エンタメクラブ』は『エンタメクラブ』のまま。『探偵部』にならずに済んだけど――
「よし!『魔術部』に変更だ――――!!」
 ――着ぐるみ理事長の良からぬ企画(考え)は健在だとか……。