エンタメクラブ   番外編4:エンタメクラブ 祭り編

 それは、秋も深まった11月のある日のことだった……。

 エンタメクラブの部室にて。
「もぅ11月だねぇ……」
 着ぐるみ理事長が、外を眺めながら至極あたりまえのことを呟いた。
「えぇ。10月でも12月でもない11月ですが、それがなにか?」
 私が着ぐるみ理事長に向かってそう言うと、着ぐるみ理事長がこっちを向いて、
「……最近、笑ちゃん冷たい…………」
 ――このよーなワケのわからない部で、こんな人と一緒にいたら、心も荒んでしまいます。
「…………」
 心を読んだらしい着ぐるみ理事長は、引きつった笑みを浮かべて、そそくさと部室を出ていった。
 ――まぁ、(いちおう)冗談だけど。
 1人残された部室で、私は、秋空と寒そうな裸の木を見上げて呟いた。
「秋かぁ…………」

「う〜ん……部の予算が、こんなモンか……」
 ある資料を見ながら、私――着ぐるみ理事長は廊下を歩いていた。
「おい。なにやってんだ? ドコ行くんだ? 部活は?」
 とつぜん背後から声を掛けられた。振り返ると、そこにはヒロ君こと森 裕樹が立っていた。
「おぉ。ヒロ君。……いやぁ、ちょっとね……予算が……」
「予算?」
 ヒロ君が資料を覗いてくる。
 そして、
「……なにかまずいのか? 予算が足りないってわけでもなさそうだが? つーか、ちゃんと予算とか出てたんだな……」
「ん〜……ちょっと……いっそのこと、盛り上げたいしなぁ……。――って、出てるよ! いちおう部活扱いだよ! ちょっと成果出したりもしてきてるし! べ、べつに職権濫用しているわけでゎ……っ!」
「? 盛り上げる??」
「って、こっちの説明スルーかよ! ……ぁ、いやいや」
「なんだよ。気になるだろーが。言えよ」
「……」

「やっ」
「ちーっすぅ」
 部室の掃除をしていると、宵ちゃんと茜さんがやって来た。
「笑……何やってんの?」
「なんとなく部室の掃除」
 汚れていた部室を、私はほうきで掃いていた。
 普段から使った後に時間があれば掃除しているけど、今日はとくに念入りにやっていた。
「あぁ、もう結構長い間使ってますからねぇ。お礼みたいなモノですか?」
「あぁ……そうだねぇ。もう11月だもんねぇ」
「……11月ですが?」
 ――あぁ、11月……なにをあたりまえのことを……私も着ぐるみ理事長同様おかしくなったか?
「それよりも、ちょっと本屋行かない? 見たい本があるの〜!」
 宵ちゃんが目を輝かせて言う。
「え? べ、べつにいいけど……ってか、部活……」
「レッツゴ〜〜〜〜〜〜!!!!」
「てか、掃除用具片付けんと……」
 ……私は半ばムリヤリ本屋に連行されたのだった……。

「よっし! 誰もいないっ! ナイスタイミング!!」
 私は誰もいない部室を見渡して声を上げた。
「部活に誰も来てないことに対してはいいのか? …………で、着ぐるみ理事長。なんだ? 今から準備するのかよ」
 私の後ろから、ヒロ君が部室を覗き込んで訊いてくる。
「そりゃぁねぇ。実はもう今日しか日がないわけだし〜。授業とかでこの教室を使うこともないから好都合! ついでに、ヒロ君が準備してくれるから好都合! 狂喜乱舞!」
「マテ。おまえもやれ」
「……ちっ。ケチ」
「そーゆー問題じゃねーだろ! 発案者はおまえだろっ!!」
「あぁ、ハイハイ。じゃ、まずは部屋の準備して〜……予算も微妙だから、明日は高いの買い込み過ぎないでね」
「わかってるっつーの。しかし……秘密にするコトもねーだろ」
「でも、なんとなくサ☆」
「……つーか、なんで俺が……」
「君が、私のトコロへやって来たのが運の尽きサ!」
「……」
 和気藹々と会話しながら、私達は部室でとある作業をしていた。

「え? 森、部活行かないの?」
「木谷、ちげーって。後で行くから、先行ってろ」
 翌日の放課後、私は1人で部室に向かっていた。
 森はなにか用事があるらしい、が……。
 ――なんだろう。なにか怪しい? 様子がおかしい? 昨日、私達が本屋に行った後、なにかあったとか? うーん……。
「……まぁ、いっか」
 そう呟いて、廊下を歩いていると、
「あぁっ!! 黄金色に輝いたUFOがフラフラとぉぉぉぉ!!!!!!」
「…………は?」
 とつぜん目の前に現れた着ぐるみ理事長が、空を指差しつつも視線は私に向けたまま叫んだ。
 ――私は目がテン……着ぐるみ理事長よ、なにがしたい?(汗)
「ホラ! UFOがぁ! あぁっ、宇宙人がぁぁ!」
 なにかを訴えかける着ぐるみ理事長に向かって、私は至って冷静に尋ねた。
「……いや、UFOがどーしました?」
「あれがウチと同じくらいの変人集団のミステリー研究部、略して『ミス研』に見つかったらどーすんだぁ!?」
「知るかぁ! それがどぉしたぁ! って、ウチらも変人集団なんですかぃ! つーか、それ、ウチらにもミス研にも失礼だっ!!」
「いいから……ホラ、宇宙人の声が聴こえるぞ!!『ワレワレハウチュウジンダ!』」
「はぁぁっ????」
「外に向かってれっつごぉぉ!!!!」
「何なんですカ――――――――――――――――――――!!!!????」
 まったくわけのわからないまま。私は強制連行されたのでした…………。

「で、俺1人でどーやって、買い出し&準備&他の人間の足止めをしろと……? ムチャ言いやがって、あいつ……」
 俺――森 裕樹が、あの着ぐるみにいろいろ頼まれたことを考え込みつつ玄関に向かって歩いていると、そこへ愁――葉山 愁梧がやって来た。
「ヒロ、どこに行くんだ? 部活は行かないのか?」
「…………」
 俺はおもわず笑顔になった。
「……!?」
 その表情の変化にイヤな予感を察したのか、愁はその場から逃げようと――
「愁。いいトコに来たなぁ、おい」
 さらに笑顔でがっしりと。愁の肩を掴み、逃げられないようにする。
「…………」
 少し怯えた表情を浮かべている愁。
 ――そんなにビビらなくてもいいだろ。
 俺は笑顔のまま、
「このさい、ちょっと手伝ってくれ」
「な、なにを……」

「あーの――……」
 部室に向かおうとしていた山梨 宵さんと千種 茜さんに、俺――葉山 愁梧は声を掛けた。
「ん? なに?」
「どうしたんですか? 部活は行かないんですか?」
「えっと……」
 さっきとつぜんヒロに頼まれたこと。……足止め。
 ――ヒロォ! 足止めって、なんなんだよ! どーすりゃいーんだよぉ!?(汗)
「……部活行くから」
 俺の脇を抜け、部室へ向かおうとする2人。
「って、あぁ! ちょっと待って!」
「なんだよ!? はっきり言えっつーの」
 山梨さんがイライラして怒鳴る。
 ――こ、怖い!
「ええええっと……つ、つ、付き合ってください!!!!!!!!」
「………………は??」
 ――…………ミスった……(泣)
「って、違ぁぁう!!」
 テンパって、完全に言葉のチョイスを間違えた。とにかく部室に行かせたくなかっただけなんだ。それだけなんだ。
「あぁ、もぉ、いや、そーじゃなくてっ! えっと、ちょっとそこらへんに……!」
 おもわず涙目になる。
「え? 葉山君って、宵ちゃんのことがスキだったんですかぁ!?」
「えぇ……でも、私、あんたに興味ないしなぁ……」
「……………………」

 ――さて。着ぐるみ理事長に連れられ、中庭まで出てきた私達だが……。
「って、ドコにUFOなんているんですかぁ!?」
「ワレワレハウチュウジンダ」
「それはもーいーっつーねん!!!!」
 私は腕を掴む着ぐるみ理事長の手を振り払った。
「部活行きますよ!?」
「……あと10分くらい待ってほしい……」
「はぁ? ナゼ?」
 小さく呟いた着ぐるみ理事長がじ〜っと私を見つめる。
 ――しかも、なんだか、さも自分が被害者だと言わんばかりの目で!
 と、そこへ……。
「UFOですと!? ミス研の部長ドクロこと黒崎 大和、参上……!」
 ドカッ!!!!!!!!
 力いっぱい、着ぐるみ理事長はとつぜん現れた『なにか』を蹴り飛ばした。そして、『なにか』はそのまま空の彼方へと消えていった……。
「い、い、今のはいったい……」
「キノセイだっ! 1番星が輝いただけだ!」
「は、はぁ……?」
「さてと。そろそろ戻るかなー? ……まだかな?」
 着ぐるみ理事長が、近くにあった時計を見上げて言った。
「『まだ』って……いったい。なにかあるんですか?」
 そう私が訊くと――
「ヤダナァ。ナニもないヨ?」
「……すごく棒読みなんですけど??」
「ま。いいや。部室戻ってみるかぁ」
「はい? けっきょく私をここまで連れ出した理由はなんだったんですか……?」
 着ぐるみ理事長は、その問いには答えずただにっこり笑うと、踵を返して部室へと向かっていった。

 私達が部室に入ろうとすると、ちょうど中から森が出てきた。
「あ。森。もう来てたんだ……って、私、着ぐるみ理事長のせいで、ムダに来るの遅れたもんなぁ……」
「で、ヒロ君。準備はできた?」
 着ぐるみ理事長が森に訊く。
「? 準備??」
「おぉ。ギリギリできたぜ。愁や先生に手伝ってもらってな……」
 そう言った森の後ろから、小坂先生が顔を覗かせた。
「じゃぁ、皆さん。そろそろ始めましょうか」
 笑顔でそう言う先生。
「……? 始める????」
 と、そこへ、後からやって来たのが、宵ちゃんと茜さん、そして、葉山の3人だった。
「まぁ、そんなに言うなら付き合ってあげてもいいけどさぁ」
「そ、そうじゃなくて……」
「あ、愁。足止めサンキュ〜」
 森が葉山に向かって明るく声を掛ける。
「?? 足止め????」
「ヒ、ヒ、ヒロぉぉぉぉ〜!!!!!! お、おまえのせいで、俺はあらぬ疑いを……っ!!!!」
 葉山が森の襟首を掴む。
「ん? なにがあったか知らねーけど、悪ぃ悪ぃ」
「ヒロォ!! おまえ、それ、絶対そんなに悪いと思ってない……!」
「……なにかあったの?」
 そっと、私は宵ちゃんと茜さんに尋ねてみた。
「あのですねぇ。なにやら、葉山君が、宵ちゃんに『付き合って』と……」
「えぇっ!? 宵ちゃんと葉山が付き合う!? マジですか!?」
 思わずそう声を上げると、
「ちっがぁぁぁぁう!!!!」
 すぐさま葉山から否定らしい声が上がる。周りはどう見ても悪ノリしてるけど。
「そうか、愁。仲良くやれよ」
「違うって言ってんだろぉぉぉぉ!! おまえが足止めしろって言ったから……!」
「……足止め? さっきから、足止めとかなんなの?」
 ずっと気になっていたことを訊いてみる。
「ふっふっふ」
 ――妙な笑いを浮かべる着ぐるみ理事長……。
「まぁ、ともかく。中に入って入って♪」
 着ぐるみ理事長は私の背中を押して、部室の中に入った。

「え……? こ、コレは……なに…………!?」
 部室の中に入ると、私はその様子に息を呑んだ。
 部室内は、紙テープや折り紙で作った鎖などでキレイに装飾されていて、机の上には美味しそうなお菓子や飲み物なんかがたくさん乗っていた。
 そして、部室の黒板には――
『エンタメクラブ半周年祭り』
 ――そう大きく書かれていた。
「は、『半周年祭り』……??」
 私が呆然と呟くと、着ぐるみ理事長が黒板の前に立ってみんなに尋ねた。
「今日は何月何日ですか?」
「えっと……11月13日、ですが……?」
 茜さんがゆっくりと答える。
 着ぐるみ理事長は大きく頷くと言った。
「エンタメクラブができたのは――笑ちゃんと出会って、笑ちゃんが部長をOKしてくれて、そして、エンタメクラブという部活が発足した――それは、5月13日のことでした」
「5月……13日? で、今日は……」
 宵ちゃんの言葉を遮って、着ぐるみ理事長が元気に言った。
「11月13日! エンタメクラブ設立から、ちょうど半年です!!」
 ――……。
「で? 半周年でお祭りなワケですか……」
「お祭りっていうか、パーティー、かな? まぁ、どっちでもいいけどさ。楽しけりゃOK!」
 着ぐるみ理事長が楽しそうに声を弾ませる。
 ――う〜ん……さすが、お祭り好き……。
 と、とつぜん着ぐるみ理事長が付け加えた。
「ついでに、11月13日は旧サイト『みてい公開記念日』でもある。懐かしい」
「み、『みてい』……?」
「おぉ。メタいメタい」
 ――まぁ、それはさておき……。
「もしかして、それで、さっきから様子がおかしかったんですか?」
 着ぐるみ理事長が、私を部室に近付けまいとしていた理由――それが、コレ、かぁ。
「……だってさぁ、やっぱり、驚かせたいじゃん? ヒロ君にはバレちゃったから、手伝ってもらっちゃったけど」
 その言葉に、森がうんうん頷く。
「みんなにバレずに準備したいからって、飾り付けだの、買い出しだの、準備だの……そのうえ、みんなの足止めまでしろ。なーんてムチャ言いやがるんだからな、こいつは……。まぁ、足止めは愁に手伝ってもらったけどな」
 そう言って、葉山のほうを見る。
 ――なんか……葉山、涙目なんですけど?(汗)
「あぁ。さっきのは足止めね。まぁ、なんかそんなことだろーとは思ったけどさ」
 宵ちゃんは、とくに気にしてもなさそうに言ったけど……葉山はまだなにかダメージを受けているようだった……。
「……なんだぁ。嘘だったんですかぁ。面白かったのに、残念……」
 ――茜さんが、なにか小声で言ったような……まぁ、気にしないことにしよう。
「まぁ、ともかく! エンラブ半周年祭りを始めようじゃないかっ!!」
 着ぐるみ理事長が私達を椅子へ追いやる。
「って、まだ全員集まってな――」
「おぅ。今日は絶対こっちの部活来いっつーから、来たぞー!」
「こんにちは」
「わっ。なんだこれ?」
「どうも……」
「松。あすちゃん。高木君。華藤さん!」
 ちょうどそこへ、みんなが続々と集まってきた。
「よし! ナイスタイミングで勢揃いしたね! 座って座って!! コップ持って! お祭りを始めるよ!」
 その言葉にみんなワクワクしながら、お菓子がたくさん置いてある机の前に並べられた椅子に座った。
 着席してジュースの入ったコップを持つ私達の顔を、満足げに見回した着ぐるみ理事長は、自分の手に持ったコップを高々と掲げて大きな声でその一言を発した。
「カンパーイ!!!!!!!!!!」