もうどうでもいいよ。

「好きです」

「…………はぁ」

 飲み会の帰り、職場の男に告白された。

「ちょっと考えてみてほしい」

 ――とは言われても……。

 家路を辿りながら、仕方なく考えてみる。
 付き合ったら付き合ったで、同じ職場ってだけでも面倒くさそうだし、フッたらフッたで、気まずくなられそうで面倒くさそうだ。
 なんでこんなことをしようと思うのか、不思議でたまらない。

 家に着き、玄関の鍵を回す。扉を開けて、靴を脱ぎ捨てた。
 ジャケットを脱ぐこともせず、そのままベッドにダイブする。

 ――職場での顔しか知らないくせに、よくもまぁ……。

 瞼を閉じた。
 ふと元彼を思い出す。今やどうでもよくなった元彼だ。
 元彼とはなんで別れたんだっけ? 思い出す気力もない。思い出す気すら起きないくらいの感情だったのだから、別れたのかもしれない。

 ――恋愛?

 もしかしたら、まともな恋愛をしたことなかったかもと、思い返してみれば、若い頃はなんとなく付き合ってみたり、不倫なんてしてみたり、やはり碌なもんじゃなかった。
 自分から好きになってみても、相手は結局体目当てだったりしたこともあり、正直、恋愛自体くだらないと思っている。
 それでも、あの時は、体目当てでも別に構わないと思っていたけれど。
 恋は盲目である。

 ――告白してきたあの人も、恋は盲目なんだろう。悪いところなんて、全然見えていない。

 …………。

 真っ暗だ。
 歩いても歩いても、暗闇しかない。

「   」

 誰かが呼ぶ声がする。
 声の方へと向かっていくと、ようやく闇が晴れて、見たこともない景色が広がっていた。
 草原に、ピンク色や黄色の建物。どうやって建っているのか、重力に反しているようにしか見えない妙な形状をしている。

「   」

 目の前に男が立っていた。男が名前を呼ぶ。
 声に聞き覚えはある。たぶん、これは、元彼だ。顔はよくわからないけど。

「遊園地で遊ぼう」

 唐突に提案する元彼。腕を引っ張って、あの謎の建物に連れて行こうとしてくる。

 ――遊園地? 別れているのに、なぜ?

 そもそもあれは遊園地なのかとか、それ以前にここはどこかとか、もっとツッコむべきところはある気もするが。

「いや、もうどうでもいいです」

 そう断って、その腕を振り払った。

「酷いな。僕は君をこんなにも愛しているのに」

 気付けば、元彼は不倫した男になっていた。

 ――不倫のくせに、なにを言っているのか。

「俺のこと、好きだよね?」

 今度は――本当に、好きだった人。体だけでもいいと思っていた人。
 でも――

「もう本当にどうでもいいですって」

 次の瞬間、目の前にいたその人は、溶けて、消えて、全てが闇に呑まれた。

「――!」

 目を見開いた。
 そこは、ベッドの上だった。

 ――……夢……。

 ベッドから起き上がり、着っ放しだったジャケットを脱いだ。
 冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出し、飲み干す。

 夢を見てた。どんな夢だったかわからないけど、それは、気持ち悪く、割とどうでもいいような夢だった気がする。
 ところで、眠る前になにを考えていたのか思い出そうとしてみる。
 でも、やはり思い出す気力はなくて――もういいや。しっかりと眠ろう。

「もうどうでもいいよ」

 眠る支度を終えてベッドに入り、そう小さく呟いて瞼を閉じた。



 ――それは、どうでもいい人生の中のどうでもいい日常のどうでもいい1コマ。




 こういう話を書くと、Short Storyとチラシの裏の束に入れるか、本当毎回迷うよね……。
 たしか、昨夜寝る前になんだか暗い話(?)を考えてて、起きたらイマイチ覚えてなくて、こんな感じのものが出来上がった。
 そして本日はもう1本アップ。全然全く本当に全然違う方向の話だけど、次のお話も是非!


――――2015/03/21 川柳えむ