雪

　――何処へ行ってしまったの？
　　　　きっと帰ってくるよね？――

　そう信じていたのに、裏切られた少女がいた。
　怒りと悲しみが入り混じって、洗い立てのテーブルクロスにまるでコーヒーを溢したかのように……白は黒へと染まっていった。

　ここは、閉ざされた闇の世界――。

　信じる心はもう失った。
　コーヒーカップは倒れたまま。
　この世界に白は存在しない。
　そんな風に思っていた。


「雪です」

　嬉しそうに息を切らして、１人の少年が部屋にやって来た。

「雪？」

　白を失った少女が、少年に尋ねる。

「はい。雪が降ってきたんですよ！」

　少年の言葉に、少女は立ち上がって窓の外を眺めた。
　真っ白いものが、空からたくさん零れ落ちていた。

「白……」
「珍しいですよね。此処に、こんなに雪が降るなんて」

　少年の嬉しそうな声を背中に、少女はその景色を見つめていた。

　ずっと見ていなかった気がする。
　目が痛くなるくらいの、白。

「最近、元気ないですよね……。
　折角、雪が降ってきたんだし……どうせだから、楽しみましょう！」

　少年は少女の手を引いて、外へと飛び出した。
　外は、辺り一面、白で覆われていた。

「――――」

　雪は、全ての音を吸収するように、静かに降り続けている。
　全ての音を――少女の心の叫びまでも掻き消してしまう。

「綺麗ですよね、雪。
　――たまには、いいですよね。こんな景色も」

　少女には――信じないって決めた時から、もう黒しか見えなかった。
　目の前は全て闇に覆われていた。

　でも……真っ白い、雪。

　雪の白さ。
　輝く色。
　まるで黒を消すかのように。

「雪……って、こんなに、白いんだね」

　黒く汚れたテーブルクロスは、白い雪に隠されてしまった。
　雪が溶けてしまっても、水へと変わって、それはきっと黒い汚れを流していく。
　真っ白には戻らなくても。
　少しは……許せそうな気がした。

　雪の、白の眩しさに、少女は目を細めた。
　少女の口許が、心なしか緩んでいた。

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　月と同じく前のサイトでもアップしていた作品。微修正。
　そして同じくどれかのストーリーのどれかのキャラクターのお話なわけです。キャラクターとか出てなかったりして……。
　でも今回も反転でネタバレを仕込んでおきます。

グローリ・ワーカ　シリア・ブラック