神様の望んだセカイ Chapter08:横になって
「幸い食糧や水の備蓄はあったんだ。電気やガスは使えないが、まぁ数日ならなんとか生活できるくらいだな」
部屋に上がり、まだ複雑そうな表情を浮かべながらも『東間 修也(あずま しゅうや)』だと自己紹介してくれた彼が、部屋の中に置かれたペットボトルを見せながら教えてくれた。
地震によって、部屋の中は当然散らかってしまっていたが、もともと物を無駄に持たないタイプの人間のようで、倒れてしまった大きな棚などを除けば、少しの片付けで普通に使えるくらいにはなっていた。
簡単に食べられる非常食も出してもらい、2人はようやく一息つくことができた。
とにかく、今日はもうゆっくり休んで、明日また出発しよう。都と京太はそう決めて、布団へ横になることにした。
驚くべきことに、修也は2部屋あるうちの1つを、2人で寝床にするよう貸してくれた。
「正直、さすがに同じ部屋に通されるとは思ってなかった」
戸惑った京太が都に告げる。
「もしかして、気を遣ってくれたのかしらね」
都が言った。
「気を遣ってくれた?」
「彼氏だと思ったとか」
「彼氏……っ!?」
さらりと言う都の言葉に、さらに戸惑う京太。
都はいたずらっこのように笑っている。釣られて京太も笑った。
布団に横になり、2人は今までのこと、そしてこれからのことを話し合った。
今までのつまらなかった学校生活。京太は都のいじめに対して、見て見ぬふりをしていたことを謝った。都は、
「今さら、もうそんなことはどうだっていいのよ」
と穏やかに微笑んだ。
「――あの3人は、もういないのだから」
そう言って、瞼を閉じる。
いったいどんな思いで、彼女はあれだけのことをしたのだろう。してしまったのだろう。
「…………セーラー服、見つからないように、ちゃんと処分しろよ」
京太はそう言うのが精いっぱいだった。都は顔を逸らし、小さく頷いた。
そして、今日起きたとつぜんの大震災。
「……しかし、本当にびっくりしたな。まさか、こんなことが起きるなんて……」
「そうね……」
結局、この出来事は、京太が願ったから起こったものなのだろうか? それとも、やはりあの男はただの幻で、あのタイミングで地震が起こったのもただの偶然だったのだろうか? 京太にはわからなかった。
本当に神様だったのなら、きっと、彼女の幸せを願うこともできるはずなのに。
「――キョウが」
「キョウ?」
「……さっき言っただろ。妙な格好をした奴がいるだろって。そいつが、キョウなんだ」
京太の言葉に、都はなんて答えればいいのかわからないでいた。
京太は続ける。
「あいつが言ったんだ。俺は神様で、この世界は俺が生まれたと同時に始まって、俺が死んだと同時に終わるんだと。……そんなはず、ないのにな」
現実なんて、誰が死のうと変わらない。生まれる前からこの世界は存在していたし、誰が死んだって世界は変わらず進んでいく。そう、都が殺してしまったあの3人が死んでしまっても、こうやって今も世界が存在しているように。それはきっと同じように、自分が死んだところで、世界なんて終わらないのだ。
「京太にとっての世界は、きっとそこで終わりなのよね」
都が言った。
「あなたにとってはあなたの世界かもしれないけど。私にとっては私の世界だわ。だから、もしあなたが死んでしまっても、私の世界は続いていく。それだけのことなのよ」
京太は頷いた。――そう。きっとそれだけのことなのだ。
「――さぁ。そろそろ寝ましょうか。明日は、起きたらすぐに出発よ」
「しかし、これからどうなるんだろうな」
「……わからないわ。でも、いつかきっと、またつまらない日常に戻るのよ」
とてもつまらなくて、とてもくだらない。きっとそれもまた素晴らしいのかもしれない。そんな日常に、またいつか戻っていく。
この世界は、そういうものなのだ。
それから2人はゆっくりと深い眠りに就いた。眠っている間にも何度か余震はあったのだが、2人は目覚めることなくぐっすりと眠り続けていた。
「幸い食糧や水の備蓄はあったんだ。電気やガスは使えないが、まぁ数日ならなんとか生活できるくらいだな」
部屋に上がり、まだ複雑そうな表情を浮かべながらも『東間 修也(あずま しゅうや)』だと自己紹介してくれた彼が、部屋の中に置かれたペットボトルを見せながら教えてくれた。
地震によって、部屋の中は当然散らかってしまっていたが、もともと物を無駄に持たないタイプの人間のようで、倒れてしまった大きな棚などを除けば、少しの片付けで普通に使えるくらいにはなっていた。
簡単に食べられる非常食も出してもらい、2人はようやく一息つくことができた。
とにかく、今日はもうゆっくり休んで、明日また出発しよう。都と京太はそう決めて、布団へ横になることにした。
驚くべきことに、修也は2部屋あるうちの1つを、2人で寝床にするよう貸してくれた。
「正直、さすがに同じ部屋に通されるとは思ってなかった」
戸惑った京太が都に告げる。
「もしかして、気を遣ってくれたのかしらね」
都が言った。
「気を遣ってくれた?」
「彼氏だと思ったとか」
「彼氏……っ!?」
さらりと言う都の言葉に、さらに戸惑う京太。
都はいたずらっこのように笑っている。釣られて京太も笑った。
布団に横になり、2人は今までのこと、そしてこれからのことを話し合った。
今までのつまらなかった学校生活。京太は都のいじめに対して、見て見ぬふりをしていたことを謝った。都は、
「今さら、もうそんなことはどうだっていいのよ」
と穏やかに微笑んだ。
「――あの3人は、もういないのだから」
そう言って、瞼を閉じる。
いったいどんな思いで、彼女はあれだけのことをしたのだろう。してしまったのだろう。
「…………セーラー服、見つからないように、ちゃんと処分しろよ」
京太はそう言うのが精いっぱいだった。都は顔を逸らし、小さく頷いた。
そして、今日起きたとつぜんの大震災。
「……しかし、本当にびっくりしたな。まさか、こんなことが起きるなんて……」
「そうね……」
結局、この出来事は、京太が願ったから起こったものなのだろうか? それとも、やはりあの男はただの幻で、あのタイミングで地震が起こったのもただの偶然だったのだろうか? 京太にはわからなかった。
本当に神様だったのなら、きっと、彼女の幸せを願うこともできるはずなのに。
「――キョウが」
「キョウ?」
「……さっき言っただろ。妙な格好をした奴がいるだろって。そいつが、キョウなんだ」
京太の言葉に、都はなんて答えればいいのかわからないでいた。
京太は続ける。
「あいつが言ったんだ。俺は神様で、この世界は俺が生まれたと同時に始まって、俺が死んだと同時に終わるんだと。……そんなはず、ないのにな」
現実なんて、誰が死のうと変わらない。生まれる前からこの世界は存在していたし、誰が死んだって世界は変わらず進んでいく。そう、都が殺してしまったあの3人が死んでしまっても、こうやって今も世界が存在しているように。それはきっと同じように、自分が死んだところで、世界なんて終わらないのだ。
「京太にとっての世界は、きっとそこで終わりなのよね」
都が言った。
「あなたにとってはあなたの世界かもしれないけど。私にとっては私の世界だわ。だから、もしあなたが死んでしまっても、私の世界は続いていく。それだけのことなのよ」
京太は頷いた。――そう。きっとそれだけのことなのだ。
「――さぁ。そろそろ寝ましょうか。明日は、起きたらすぐに出発よ」
「しかし、これからどうなるんだろうな」
「……わからないわ。でも、いつかきっと、またつまらない日常に戻るのよ」
とてもつまらなくて、とてもくだらない。きっとそれもまた素晴らしいのかもしれない。そんな日常に、またいつか戻っていく。
この世界は、そういうものなのだ。
それから2人はゆっくりと深い眠りに就いた。眠っている間にも何度か余震はあったのだが、2人は目覚めることなくぐっすりと眠り続けていた。