エンタメクラブ   番外編2:エンタメクラブ バレンタイン編

 今日は、男女の恋心が織り成す、甘く切ないバレンタインデー……。
「寒いッ!!!!」
 私――木谷 笑の頭に、着ぐるみ理事長のチョップが飛んでくるお昼休み。なんで着ぐるみ理事長がこんな時間に私の教室にいるのかもわからない。
 でもいい。今日は気にしない!
「……い、いやぁぁ……笑ちゃんがおかしいよぅ。いったい、どーしちゃったのぅぅ……? しくしく……」
 なんだか怯えている着ぐるみ理事長を尻目に、私はドキドキ&浮かれていた。
「どうやら笑ちゃん、手作りチョコレートが上手くできたようなんです」
 茜さんが着ぐるみ理事長に言っている。
 そう。バレンタインデー。大事な大事な、予想以上の出来のチョコレート。これでもかってくらい、上手に、美味しくできたのだ。
「手作りチョコ? ほぅほぅ。くれ!」
 私に向けて伸ばされた着ぐるみ理事長の手を、おもいっきり引っ叩いて、
「あげられるワケないじゃないですカ――――!!!!!!!!」
「……チッ。ケチ」
「ケチって問題じゃないですよー!」
 ――まったく、この人は……。
 小さく溜め息を吐いて、カバンに入っているキレイにラッピングされたチョコレートを見つめた。
 ――欲しいと言われても、これだけは誰にも譲れない! 絶対に森に渡すんだから!
 私は、そう心に決めて意気込んだ。
「…………そうか、バレンタインデーね……うふふふふ……」
 着ぐるみ理事長が謎の笑みを浮かべる。
 私はそんな理事長をキッと睨んで、
「邪魔したら、殺しますよ?」
 そう言ってやった。
「……目がマジだ…………」

 ……だが、着ぐるみ理事長がこんな面白そうなイベントを見逃すはずがなかったんだ……(涙)

 部活の時間。私は胸の鼓動絶頂! で、部室に入った。
 ――森は――……いない。
「うひひひひひひ。ドキドキだねぇ」
 着ぐるみ理事長が、なんとも不快な笑顔を浮かべて言った。
 その顔に、一発ゲンコツをお見舞いして、茜さんに訊いた。
「茜さん。君は松にはチョコあげないの? ……じゃなくて、森は?」
「え? チョコ……イヤ、それは……それは気にしないで……じゃぁなくて。彼なら、まだですねぇ」
「……そっか」
 そこへ、葉山が部室に入ってきた。
「あ。葉山」
「木谷さん。こんにちわ」
「葉山ー! 森は!?」
 葉山のところに飛んでいき、開口一番そう訊く。
「も、森……? 森なら、用事とかで帰ったけど……」
「ナニィッ!!??」
 慌てて部室を飛び出す。
 ――森――――――!!?? なんで帰っちゃうのサァ!? なに!? チョコレートいらないの!? 食べたくないの!? 私のコトが嫌いなのか――!? 見つけたら、絶対にこのチョコ、食べさせてやるッ!!!!

 笑ちゃんが暴走して部屋を飛び出していくのを見送った私――龍神 絵夢こと着ぐるみ理事長。
「……暴走笑ちゃん……さってと。私も森のトコ行ってくるかぁぁ」
 ――うん、そりゃとうぜん。こんな面白イベント、見逃すハズがないよね☆
 笑ちゃんの知らぬところで、意味深な笑みを浮かべる私がいるわけであった。

「…………ところで、木谷さん……俺にチョコは……? ねぇ……」
「まぁ、諦めるしかないですよー」
 私が部室を出てしまうと、そこには涙目のはっちゃん(葉山)と苦笑いを浮かべる茜っちゃんだけが残っていたという。

 で。その頃の彼は――
「ん?」
 靴に履き替えようと自分の靴箱を覗くと、そこには、ラッピングされた小さな箱が入っていたわけで。
「なんだ、コレ?」
 箱には『気持ち在中』と筆で書かれていた。
「…………いったい……?」
 マンガのような汗をかきつつ、半分呆れながら箱を見つめる彼。
 ……と、そこへ。
「ヒロくーん。今日、バレンタインってわかってるー?」
 横からそれを覗き込んだのは、笑ちゃんではなく、この私――着ぐるみ理事長だった。
「あぁ、そういえば……そうだっけ?」
 とぼけた返事をするヒロ君……。
「……さすが、ヒロ君。やっぱり忘れてたのね……んで。それさぁ、えむちゃんからのチョコレートだったら、どうよ?」
「は? えむって……木谷の?」
「食べてくれるよねぇ?」
「……」
 じっと箱を見つめるヒロ君。

 森が箱を開けようとしたそのとき!
「『えむ』って、おまえのコトだろ、どうせぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!」
 私――笑の怒りを込めた飛び蹴りが、みごと! 着ぐるみ理事長の腹部にヒットした。
「ゲフッ!!」
 その場に崩れる着ぐるみ理事長こと『龍神 絵夢』を横目で見て、森のほうに向き直る。
 ――って、なんか、森の目が怯えてるような……気のせいかな? ま、いっか。
「森! えっと……それは、私からのチョコじゃないからね! ンな妙なコト書かないし! それ、着ぐるみ理事長からだよ! きっと妙なモノが入ってるよ! 食べちゃダメだよ!」
 私が必死に言うと、森が一瞬寂しそうな表情をした。
「……ん……?」
「ま……そうだよな。うん、わかってるって。じゃあ、また明日な」
 そう言って、その場に箱を置いて帰ろうとする森。
「……って、ちょっと待て――――――――!!!! 森……コレ!!」
 私は慌ててカバンからチョコを取り出し、森に突き付けた。
 んで、そこまでしてからはっとした。なんの前置きもなく、無我夢中で渡してしまった。
「あああああの、ホラ! いっつも、部活でお世話になってるじゃん! 副部長やってもらっちゃってるし! えっと、だから、その……」
 ――真っ赤になりながら、言い訳してる……うぅ……なんで素直に『スキだ』って一言が言えないのー?(泣)
 森は、そのチョコを受け取ると、
「……さんきゅ。開けてもいいか?」
「あ。うん! どうぞ!」
 その言葉に、力いっぱい首を縦に振る。
 森はゆっくりと包みを開けた……。
 そして、私は愕然とした。
 ――なんで……なんで、中身がグチャグチャなの――――――――――――!!!!????
 中のチョコレートは、半分に割れていた……。
 ――そ、そうか……さっきの飛び蹴り! アレのせいかぁぁぁぁ!!!!(号泣)
 ずーんと落ち込む私…………。
「…………」
 チョコをじっと見つめていた森は、それをおもむろに取り出して、口に放り込んだ。
「も、森!? そ、そんなグチャグチャなの……ムリして食べなくてもいいのに!!」
 いや、もちろん本心では食べてほしいわけではあるが、そんな人様に――しかも好きな人に与えられるような形をなしてないもの……。
 私が慌てて取り返そうと手を伸ばすと、森は、
「でも、味は美味いぞ。ありがとな」
「え…………?」
 笑顔でそう言ってくれた。
 もう……体中全ての血が顔に行ったんじゃないかってくらいに、私の顔は真っ赤である……。
 ――はぅ……嬉しい……幸せだー。森、『美味い』って言ってくれて、ありがとう。

「ところでよー」
「ん?」
 森が、着ぐるみ理事長からのチョコを見て、再び手にすると言った。
「この中身って、いったいなんなんだ?」
「あ……」
 ――そういえば、チョコって決め付けてたけど……あの人が、本当に、素直にチョコなんて贈るか? 人が右往左往するのを見て、楽しんでるようなヤツが……。いや、誕生日とかはちゃんとしたもの貰ったけどさ。ハロウィンやクリスマスはいたずらしてたしなぁ。
「……考えてみれば……きっと、なんかとんでもないモノが…………」
 私達は顔を見合わせた。そして……。
 ……好奇心に勝てなかった私達は、着ぐるみ理事長からのチョコらしきモノ? を、開封していた……。
 そして、中身は――
「……………………」
「………………………………」
 ――とても言えない…………。