エンタメクラブ 番外編5:エンタメクラブ 王様編
それは、11月13日の出来事。
とつじょ開かれた『エンタメクラブ半周年祭り』もお開きになり、外もすでに真っ暗。そんな、もう帰ろうという時。
――着ぐるみ理事長に、私――木谷 笑、そして森 裕樹は呼び止められた。
「……で。急に呼び止めた理由はなんですか? 着ぐるみ理事長?」
「つーか、なんで俺ら2人だけ……」
私と森、そして着ぐるみ理事長以外、部室にはもう誰も残っていなかった。
「いや、もう、なんていうか――後の祭り! 違った。祭りの後! こうみんなでわいわいするとさ……終わっちゃうの寂しくて」
「着ぐるみ理事長……」
――その気持ちは、私もよくわかる。
みんなで楽しく過ごした分、すごく寂しくなってしまうものだよね。
「あとヒマで」
「って、ただのヒマ潰しかよっ!!!!」
着ぐるみ理事長の言葉に、おもわず握り拳を作る。――せっかくちょっとしんみりしたのに!
「あ、いや、あの、じ、ジョーダンジョーダン!」
――冗談には見えなかったけど……。
握り締めた拳を、ゆっくりと下ろす。
「……最近、笑ちゃんが怖いよぅ。しくしく」
「……着ぐるみ理事長、なにか?」
微笑を湛えて尋ねる。
着ぐるみ理事長は、青い顔を横に降った。
「…………最近、理事長と立場が逆転してるよな……」
森が小さな声で、感心してるんだか呆れてるんだか、わからないように呟いた。
「で、とにかく。なんで呼び止めたんですか? それは寂しいからだったとして――なにしてほしいっていうんですか?」
再度、突っ込んで訊く。
「ん〜……一発芸を披露してください!」
「やっぱりけっきょくあんたのヒマ潰しかいっっっっ!!!!!!」
今度こそ着ぐるみ理事長は☆になった……。
「一発芸ってなんなんですか、いったい!」
遠いお空から戻ってきた理事長に問い質す。
「いやぁ……とくにイミはないんだけど……」
「……やっぱりイミはないんですか…………」
「…………木谷。目が怖い、目が(汗)」
なにやら怯えた様子の着ぐるみ理事長&森。怒りオーラが漏れまくりの私……。
「だ、だ、だって、お祭りは終わりです。即解散! なんてつまんないでしょー!? べつになんでもよかったんだよー。一発芸じゃなくてもー!」
着ぐるみ理事長の猫耳と尻尾は、垂れ下がった状態である。
「……まぁ、たしかにそうかもしれませんけど」
――たしかにね。そのまま帰るのも、なにかつまらないかもしれない。
しかし、その、はっきり言って……邪魔、である。
――着ぐるみ、邪魔! 着ぐるみ理事長さえいなければ、森と2人っきりになれるのにっ! いや、そもそも呼び止めてくれなければ2人きりもなにもなかったかもしれないけど。でも!!
「ぅゎぁ……な、なんか、殺気が……殺気がぁぁぁぁ」
涙目で、森の後ろに隠れる着ぐるみ理事長。
「と、ともかく……い、一発芸なんて言われても、そんなんねーぞ。仮にあったとしてもやらねーけど」
森が背中の着ぐるみ理事長に向かって言う。
「う、うむぅ……」
森の言葉に、着ぐるみ理事長は少し考え、そして……。
「じゃぁ……王様ゲームっ!!」
「人数少なっ!!」
「ダメですか」
「ダメです。つーか、ムリです」
森と私でツッコむ。
と、着ぐるみ理事長、とつぜんどこからかケータイを取り出すと。
ピッ。
「あ〜もしもし? あ、今、ドコいる? まだ部室でミョーなコトやってんの? まぁヒマだったらエンラブのほうの部室に来てや。てーか、なんで君らはこんな時間まで部活やってんのさ? え? なんでエンラブのほうも部活やってんのかって? いやまぁ、諸事情あったワケよ。つか、つべこべ言わずにさっさとコ・イ! じゃーね」
プチッ。ツーツー……。
「……って、あの、着ぐるみ理事長……? どこにお電話を……?」
――なにか、妙な予感が……。
恐る恐る訊いてみる。
「ん? まぁ、すぐにわかるさぁ」
かすかに笑みを浮かべて、着ぐるみ理事長はそう言った。
――ほどなくして、彼らはやって来た。
「呼ばれて飛び出て! ミス研部長! 黒崎 大和っ! ただいま参・上!!!!」
「あ、えっと……こんばんは。白川 玲音です」
「ん〜……なんだよ……っと、青柳 皇海……だ」
「皇海! ちゃんと挨拶しなさいよっ! あ、赤城 瑠美です、ヨロシク♪」
「……み……みす、てりぃ研究部の人達ぃ?」
「違うっ!『みす、てりぃ研究部』ではナイっ! ミステリー研究部だっ! ちなみに、お――私のことは是非とも『ドクロ』と呼んでくれたまえっ!」
――ミステリー研究部、通称『ミス研』は、ちゃんとした部活に登録されていない、いわば同好会である。
部長は、この黒崎さん――もとい、ドクロ部長さん。
真っ黒なローブにドクロの首飾りと、学校だというのに変わった格好をしている(着ぐるみ理事長のほうがアレだけど)。……ちなみに、顔は美系。いわゆるイケメンなのだけれども……なんとももったいない……。
そして、その部員の、小柄でメガネをかけた三つ編みおさげ娘の玲音ちゃん。金髪・長髪でいかにも不良そうな青柳さん。その幼馴染だという陸上部もやっている赤城さん。
「ぷぅ!」
「って、なにこれ――――――!!!!????」
変な生き物……生き物!? 見たこともない半透明ピンクの丸いなにかがいる……! 動いてる!
「これはロサだ!」
「ロサってなんですか――――!!??」
「あ、モノノケなんですよ」
「そんなさも当然みたいにあっさり答えられても!」
答えてくれてもさっぱりわからない。ま、まぁ、ミステリー研究部だからしょうがないのかもしれない。変な生き物もよくあることなのかもしれない。
――というか、なぜ私がこのミス研のメンバーを知っているのかって?(変な生き物は知らないけど)
それは、このミス研が実は変人の集まりとして有名だからです! なんか着ぐるみ理事長、うちと同じくらい変とか言ってたけどさ!
「そう。最近更新お休み中のミス研の人達呼んでみたよー」
「メタな発言はやめたまえっ!」
着ぐるみ理事長にドクロ部長さんがツッコむ。
「とにかく、そんなワケでっ! 王様ゲームやりましょうっ!!」
と、唐突に着ぐるみ理事長。どこからかくじを取り出した。
「って、王様ゲームぅ? 急に呼び出したと思ったら、そんな用事かね? 我らにはまだ仕事があるので戻らせてもらおう」
そう言って、ドクロ部長さんは出て行こうとする。
「待てィ。仕事ってなによ?」
着ぐるみ理事長の問いに即答。
「百物語パートV」
「却下。しかも3回目ならなおさら却下」
「ナゼだっ!?」
……で、まぁ、なんだかんだで……。
なぜかけっきょく王様ゲームをやるはめになったのだった。
――はぁ。どんどんお邪魔虫……っとと、人が増えてるぅ……。
「じゃぁ、いくよ〜? 王様だーれだっ!?」
着ぐるみ理事長がくじを持ち、みんなが引く。着ぐるみ理事長は残りのくじを引く。
「で、王様〜……って、あ、私だ」
――なんか、いきなり王様を引いてしまった。
「それじゃ〜……どうしよっかなぁ……んじゃぁ……1番が3番に、嘘でも愛の告白っ!」
って、私は言ってみてから、いっしゅん後悔した。
だって、もし、1番が玲音ちゃんとかで、3番が森だったとしたら――……なんか、嘘でもそれは嫌だ。
でも、引いたくじの結果を知って、私はほっとした。
――ていうか、笑った。
「3番……って、俺だな」
3番は、本当に森だった。
で、1番は――
「こ、この俺が彼に『アイノコクハク』をっ!? なんだね、それはっ! どんな運命だね!?」
――ドクロ部長さんだった(笑)
で、愛の告白をしてくれたわけなのだけど、それはなんだかかわいそうだったので、そのことは語らないでおく(笑)
その後も何回もやって、もうそろそろ終わるかというときだった。
「あ! やった。私が王様〜♪」
なんだかんだで、今まで王様をまったく引いていなかった(笑)着ぐるみ理事長が、ようやく王様を引き当てた。
ちなみに、私が引いた番号は2番だった。
番号を確認していると、着ぐるみ理事長が命令を口にした。
「んじゃねぇ……このゲームの王道♪ 4番が2番にキスってヤツで♪」
――………………は?
え……待って。2番って、私……だよ? よ、4番って……誰!?
「え!? 俺が誰にキスだってぇ!!!!????」
「え!? はい!? も、も、森っ!!??」
――はぁ!? 2番が私で、4番が森っ!? で、4番が……な、なにっ!? えっと、どういうこと!?
「……………………」
「…………………………」
「おー早くしろー」
「わぁ……。えっと……がんばって? ください」
「あらあらー」
「王様の命令は絶対だからな」
「そうそう。王様の命令は絶対だよー」
周りが囃し立てる。
私と森は正面を向き合ったが、恥ずかしくて、どうにも顔を上げられない……。
――ちょっと待って……ほんとうに、今、なにが起こっているの?
なんでこんなことになった!? そりゃ、う、嬉しくないことなんてないけど。いやいや、でも、ビミョウっ!! 恥ずかしいしっ! ムードとかもなにもないじゃん! ってか、フ、ファーストキスじゃないっすか、私っ!! いやいや、待って待って! えぇぇ!? なにこれ! なんなのこれ!!!!
私は、コンラン、している!
「うわぁ、笑ちゃん、慌てちゃってカーワイー。もっとムードとかぁ、盛り上げてほしい〜?」
着ぐるみ理事長が、イヤ〜な笑顔で尋ねてくる。
「い、いりませんよっ!! っていうか、またムードとかって……人の心を……………………って、あれ……?」
――……彼女は、人の心を読めるわけで…………って、それって、つまり、もしかして……。
「ギクッ!!!!」
ゆっくりと、着ぐるみ理事長のほうを向く……。
着ぐるみ理事長は……すでに撤退体勢っ!
「心読んで番号知ったな!? それってイカサマじゃんっ!!」
「えと、じゃぁ、そーゆーことでっ! みんな、気を付けて帰れよっ!! いい夢見ろよー☆」
そう捨て台詞を叫ぶと、着ぐるみ理事長は素早い動作で教室を出ていった。
「逃げたぞ追え〜!!!!」
と、それを、なにやら楽しそうにドクロ部長さんが追いかけていく。
そして、さらにその後を、ミス研の部員達が追いかけていってしまった……。
「………………」
「……なんだったんだ……?」
「アハハ……まぁ、とりあえず、帰ろっかぁ……」
鞄を手に持ち、戸締りを確認する。
「それじゃぁ……」
2人、誰もいなくなった教室を出る。
――それにしても、ちょっと……ちょっとだけ、残念だったカナァ……? なんて……なんてね。
「…………」
「え? 森、なにか言った?」
森のほうを振り返る。
「いや、べつに。帰るぞ」
「う、うん……? あ、ちょっと早いよ。待って!」
慌てて森の後ろをついていく。
――なんだかよくわかんないけど……いろいろあった1日だったな。騒がしくて、大変だった。それでも、やっぱりそれ以上に楽しかった。
今日という日を振り返って、おもわず笑う。
森はそんな私を不思議そうに見た。
「なに笑ってんだよ」
「べつになんでもないよー」
学校を出て、家の方角へ。闇色に染まった帰り道を、2人で並んで歩く。
こうやって、今、一緒にいられること。
その瞬間が、すごく幸せで、たとえそれだけでも、今日がイイ日だな。って、思えたの。
それは、11月13日の出来事。
とつじょ開かれた『エンタメクラブ半周年祭り』もお開きになり、外もすでに真っ暗。そんな、もう帰ろうという時。
――着ぐるみ理事長に、私――木谷 笑、そして森 裕樹は呼び止められた。
「……で。急に呼び止めた理由はなんですか? 着ぐるみ理事長?」
「つーか、なんで俺ら2人だけ……」
私と森、そして着ぐるみ理事長以外、部室にはもう誰も残っていなかった。
「いや、もう、なんていうか――後の祭り! 違った。祭りの後! こうみんなでわいわいするとさ……終わっちゃうの寂しくて」
「着ぐるみ理事長……」
――その気持ちは、私もよくわかる。
みんなで楽しく過ごした分、すごく寂しくなってしまうものだよね。
「あとヒマで」
「って、ただのヒマ潰しかよっ!!!!」
着ぐるみ理事長の言葉に、おもわず握り拳を作る。――せっかくちょっとしんみりしたのに!
「あ、いや、あの、じ、ジョーダンジョーダン!」
――冗談には見えなかったけど……。
握り締めた拳を、ゆっくりと下ろす。
「……最近、笑ちゃんが怖いよぅ。しくしく」
「……着ぐるみ理事長、なにか?」
微笑を湛えて尋ねる。
着ぐるみ理事長は、青い顔を横に降った。
「…………最近、理事長と立場が逆転してるよな……」
森が小さな声で、感心してるんだか呆れてるんだか、わからないように呟いた。
「で、とにかく。なんで呼び止めたんですか? それは寂しいからだったとして――なにしてほしいっていうんですか?」
再度、突っ込んで訊く。
「ん〜……一発芸を披露してください!」
「やっぱりけっきょくあんたのヒマ潰しかいっっっっ!!!!!!」
今度こそ着ぐるみ理事長は☆になった……。
「一発芸ってなんなんですか、いったい!」
遠いお空から戻ってきた理事長に問い質す。
「いやぁ……とくにイミはないんだけど……」
「……やっぱりイミはないんですか…………」
「…………木谷。目が怖い、目が(汗)」
なにやら怯えた様子の着ぐるみ理事長&森。怒りオーラが漏れまくりの私……。
「だ、だ、だって、お祭りは終わりです。即解散! なんてつまんないでしょー!? べつになんでもよかったんだよー。一発芸じゃなくてもー!」
着ぐるみ理事長の猫耳と尻尾は、垂れ下がった状態である。
「……まぁ、たしかにそうかもしれませんけど」
――たしかにね。そのまま帰るのも、なにかつまらないかもしれない。
しかし、その、はっきり言って……邪魔、である。
――着ぐるみ、邪魔! 着ぐるみ理事長さえいなければ、森と2人っきりになれるのにっ! いや、そもそも呼び止めてくれなければ2人きりもなにもなかったかもしれないけど。でも!!
「ぅゎぁ……な、なんか、殺気が……殺気がぁぁぁぁ」
涙目で、森の後ろに隠れる着ぐるみ理事長。
「と、ともかく……い、一発芸なんて言われても、そんなんねーぞ。仮にあったとしてもやらねーけど」
森が背中の着ぐるみ理事長に向かって言う。
「う、うむぅ……」
森の言葉に、着ぐるみ理事長は少し考え、そして……。
「じゃぁ……王様ゲームっ!!」
「人数少なっ!!」
「ダメですか」
「ダメです。つーか、ムリです」
森と私でツッコむ。
と、着ぐるみ理事長、とつぜんどこからかケータイを取り出すと。
ピッ。
「あ〜もしもし? あ、今、ドコいる? まだ部室でミョーなコトやってんの? まぁヒマだったらエンラブのほうの部室に来てや。てーか、なんで君らはこんな時間まで部活やってんのさ? え? なんでエンラブのほうも部活やってんのかって? いやまぁ、諸事情あったワケよ。つか、つべこべ言わずにさっさとコ・イ! じゃーね」
プチッ。ツーツー……。
「……って、あの、着ぐるみ理事長……? どこにお電話を……?」
――なにか、妙な予感が……。
恐る恐る訊いてみる。
「ん? まぁ、すぐにわかるさぁ」
かすかに笑みを浮かべて、着ぐるみ理事長はそう言った。
――ほどなくして、彼らはやって来た。
「呼ばれて飛び出て! ミス研部長! 黒崎 大和っ! ただいま参・上!!!!」
「あ、えっと……こんばんは。白川 玲音です」
「ん〜……なんだよ……っと、青柳 皇海……だ」
「皇海! ちゃんと挨拶しなさいよっ! あ、赤城 瑠美です、ヨロシク♪」
「……み……みす、てりぃ研究部の人達ぃ?」
「違うっ!『みす、てりぃ研究部』ではナイっ! ミステリー研究部だっ! ちなみに、お――私のことは是非とも『ドクロ』と呼んでくれたまえっ!」
――ミステリー研究部、通称『ミス研』は、ちゃんとした部活に登録されていない、いわば同好会である。
部長は、この黒崎さん――もとい、ドクロ部長さん。
真っ黒なローブにドクロの首飾りと、学校だというのに変わった格好をしている(着ぐるみ理事長のほうがアレだけど)。……ちなみに、顔は美系。いわゆるイケメンなのだけれども……なんとももったいない……。
そして、その部員の、小柄でメガネをかけた三つ編みおさげ娘の玲音ちゃん。金髪・長髪でいかにも不良そうな青柳さん。その幼馴染だという陸上部もやっている赤城さん。
「ぷぅ!」
「って、なにこれ――――――!!!!????」
変な生き物……生き物!? 見たこともない半透明ピンクの丸いなにかがいる……! 動いてる!
「これはロサだ!」
「ロサってなんですか――――!!??」
「あ、モノノケなんですよ」
「そんなさも当然みたいにあっさり答えられても!」
答えてくれてもさっぱりわからない。ま、まぁ、ミステリー研究部だからしょうがないのかもしれない。変な生き物もよくあることなのかもしれない。
――というか、なぜ私がこのミス研のメンバーを知っているのかって?(変な生き物は知らないけど)
それは、このミス研が実は変人の集まりとして有名だからです! なんか着ぐるみ理事長、うちと同じくらい変とか言ってたけどさ!
「そう。最近更新お休み中のミス研の人達呼んでみたよー」
「メタな発言はやめたまえっ!」
着ぐるみ理事長にドクロ部長さんがツッコむ。
「とにかく、そんなワケでっ! 王様ゲームやりましょうっ!!」
と、唐突に着ぐるみ理事長。どこからかくじを取り出した。
「って、王様ゲームぅ? 急に呼び出したと思ったら、そんな用事かね? 我らにはまだ仕事があるので戻らせてもらおう」
そう言って、ドクロ部長さんは出て行こうとする。
「待てィ。仕事ってなによ?」
着ぐるみ理事長の問いに即答。
「百物語パートV」
「却下。しかも3回目ならなおさら却下」
「ナゼだっ!?」
……で、まぁ、なんだかんだで……。
なぜかけっきょく王様ゲームをやるはめになったのだった。
――はぁ。どんどんお邪魔虫……っとと、人が増えてるぅ……。
「じゃぁ、いくよ〜? 王様だーれだっ!?」
着ぐるみ理事長がくじを持ち、みんなが引く。着ぐるみ理事長は残りのくじを引く。
「で、王様〜……って、あ、私だ」
――なんか、いきなり王様を引いてしまった。
「それじゃ〜……どうしよっかなぁ……んじゃぁ……1番が3番に、嘘でも愛の告白っ!」
って、私は言ってみてから、いっしゅん後悔した。
だって、もし、1番が玲音ちゃんとかで、3番が森だったとしたら――……なんか、嘘でもそれは嫌だ。
でも、引いたくじの結果を知って、私はほっとした。
――ていうか、笑った。
「3番……って、俺だな」
3番は、本当に森だった。
で、1番は――
「こ、この俺が彼に『アイノコクハク』をっ!? なんだね、それはっ! どんな運命だね!?」
――ドクロ部長さんだった(笑)
で、愛の告白をしてくれたわけなのだけど、それはなんだかかわいそうだったので、そのことは語らないでおく(笑)
その後も何回もやって、もうそろそろ終わるかというときだった。
「あ! やった。私が王様〜♪」
なんだかんだで、今まで王様をまったく引いていなかった(笑)着ぐるみ理事長が、ようやく王様を引き当てた。
ちなみに、私が引いた番号は2番だった。
番号を確認していると、着ぐるみ理事長が命令を口にした。
「んじゃねぇ……このゲームの王道♪ 4番が2番にキスってヤツで♪」
――………………は?
え……待って。2番って、私……だよ? よ、4番って……誰!?
「え!? 俺が誰にキスだってぇ!!!!????」
「え!? はい!? も、も、森っ!!??」
――はぁ!? 2番が私で、4番が森っ!? で、4番が……な、なにっ!? えっと、どういうこと!?
「……………………」
「…………………………」
「おー早くしろー」
「わぁ……。えっと……がんばって? ください」
「あらあらー」
「王様の命令は絶対だからな」
「そうそう。王様の命令は絶対だよー」
周りが囃し立てる。
私と森は正面を向き合ったが、恥ずかしくて、どうにも顔を上げられない……。
――ちょっと待って……ほんとうに、今、なにが起こっているの?
なんでこんなことになった!? そりゃ、う、嬉しくないことなんてないけど。いやいや、でも、ビミョウっ!! 恥ずかしいしっ! ムードとかもなにもないじゃん! ってか、フ、ファーストキスじゃないっすか、私っ!! いやいや、待って待って! えぇぇ!? なにこれ! なんなのこれ!!!!
私は、コンラン、している!
「うわぁ、笑ちゃん、慌てちゃってカーワイー。もっとムードとかぁ、盛り上げてほしい〜?」
着ぐるみ理事長が、イヤ〜な笑顔で尋ねてくる。
「い、いりませんよっ!! っていうか、またムードとかって……人の心を……………………って、あれ……?」
――……彼女は、人の心を読めるわけで…………って、それって、つまり、もしかして……。
「ギクッ!!!!」
ゆっくりと、着ぐるみ理事長のほうを向く……。
着ぐるみ理事長は……すでに撤退体勢っ!
「心読んで番号知ったな!? それってイカサマじゃんっ!!」
「えと、じゃぁ、そーゆーことでっ! みんな、気を付けて帰れよっ!! いい夢見ろよー☆」
そう捨て台詞を叫ぶと、着ぐるみ理事長は素早い動作で教室を出ていった。
「逃げたぞ追え〜!!!!」
と、それを、なにやら楽しそうにドクロ部長さんが追いかけていく。
そして、さらにその後を、ミス研の部員達が追いかけていってしまった……。
「………………」
「……なんだったんだ……?」
「アハハ……まぁ、とりあえず、帰ろっかぁ……」
鞄を手に持ち、戸締りを確認する。
「それじゃぁ……」
2人、誰もいなくなった教室を出る。
――それにしても、ちょっと……ちょっとだけ、残念だったカナァ……? なんて……なんてね。
「…………」
「え? 森、なにか言った?」
森のほうを振り返る。
「いや、べつに。帰るぞ」
「う、うん……? あ、ちょっと早いよ。待って!」
慌てて森の後ろをついていく。
――なんだかよくわかんないけど……いろいろあった1日だったな。騒がしくて、大変だった。それでも、やっぱりそれ以上に楽しかった。
今日という日を振り返って、おもわず笑う。
森はそんな私を不思議そうに見た。
「なに笑ってんだよ」
「べつになんでもないよー」
学校を出て、家の方角へ。闇色に染まった帰り道を、2人で並んで歩く。
こうやって、今、一緒にいられること。
その瞬間が、すごく幸せで、たとえそれだけでも、今日がイイ日だな。って、思えたの。