エンタメクラブ   番外編6:エンタメクラブ 完全なる運命編

「笑ちゃん、笑ちゃ〜ん! 明日なんの日か知ってる!?」
 放課後。突然ハイテンション(いつものこと)な着ぐるみ理事長がやって来て話しかけてきた。
「明日? 明日は七夕ですよ」
 そのテンションに、こちらはごくごく普通のテンションで返す。
「そうそう! じゃあ、明後日はなんの日か――」
「えぇい! 明日や明後日のことなんてどうでもいい!!」
 私はそんな(うっとおしい)様子の着ぐるみ理事長を手で制して話を遮った。
 ――そう。明日や明後日なんて、どうだっていいのだ。大事なのは、今日。今日――森の誕生日だというこの日。
 バッグの中をちらりと覗う。そこには、森への誕生日プレゼントが大事に入れてある。
 ――こ、これは、クラスや部活、特に部活なんかでお世話になっているという日頃のお礼であって!
「ダダ漏れだよ笑ちゃん」
 決して他意はない。決して!
「他意ありまくりだよ笑ちゃん」
 でも、あれだよね! これ、七夕挟んでの…………まるで、そう。完全なる運命みたいー!!
「テンション高い」
 ――あー! 彼が帰る前に渡してしまわないと!
 教室を振り返ると、今まさに、森は帰り支度を終えて教室を出ていくところだった。
 現在は期末テスト期間中なので部活もない。このままではすぐに帰ってしまうだろう。
 引き止めないと! ――いや、でも、まだ心の準備が……!
「あー。でさー笑ちゃん。私もヒロ君に誕生日プレゼントを……」
「って、着ぐるみ理事長、森が誕生日だってこと知ってたんですか!? ていうか、誕生日プレゼント渡す気なんですかっ!!!!????」
「こ、怖い。なんか怖いよ笑ちゃん……っ! ていうか、ほら。いきなり渡すなんて緊張するでしょ! 一緒のほうが、君も渡しやすいんじゃないかね? ねっ!?」
 私の迫力に気圧されてか、着ぐるみ理事長は少し焦りながらそんなことを言う。
 ――でも、たしかに、そうか。そうだ。一緒のほうが断然渡しやすいカモ。
「……わかりました。そうと決まれば、急いで森を追いますよ!」
「ほいキタ!」
 こうして、私達は森を追いかけて教室を飛び出したのだった。

「森!」
「んー?」
 玄関でようやく追いついた。
 彼の名を呼ぶと、気の抜けた返事を返しながらこちらを向いてくれた。
「あっ、あのさ、森……あの……!」
 少し走ったことで乱れた息を整えつつ、私は言葉を探していた。
 なんと切り出せばいいのか……。
 恥ずかしさもあって、顔が少しだけ火照る。
「あのさ、ヒロ君! 君、今日誕生日でしょ!?」
 私が悩んでいる横で、着ぐるみ理事長はあっさりそう切り出した。
 ――意識していないからこそなんだろうけど、少し着ぐるみ理事長が羨ましくなった。
「えっと、だから、その……」
 私が頑張ってその先を言おうとしているのに、着ぐるみ理事長は空気を読まない。
「プレゼント持ってきたよー! お誕生日おめでとうっ!!!! ほら! 笑ちゃんも!」
「…………」
 ――おまえ、心読めるんじゃないんかい。
 小さくため息をついて、一緒にプレゼントを差し出した。
「! ……おぅ。さんきゅ」
 私の手から、ゆっくりプレゼントを受け取ってくれた。
 もちろん、着ぐるみ理事長のもだけど。
 でも、嬉しくて、少しぽーっとしながらその様子を見ていた。
「……てか、よく俺の誕生日だって知ってたな?」
 ――! そりゃ、もちろん……。ずっと前から知ってる。――なんて恥ずかしくて言えないけども。
「そりゃ知ってるよー。理事長ですから! みんなの調べたよっ!」
 胸を張って言う着ぐるみ理事長。
 ――って、個人情報を勝手に調べていいものなのか? 理事長だからいいのか??
「――あ。そうそう! 明日なんの日か知ってる?」
「明日? 七夕だろ?」
 さらりと返す森。
 着ぐるみ理事長は満足そうな表情で続けた。
「そう! それで、明後日は――笑ちゃんと私の誕生日なんだよ☆」
「「えっ!?」」
 おもわず、森とハモっていた。
 ――着ぐるみ理事長が、私と同じ誕生日――――!!??
「マジか」
「マジだよ! これはもう、完全なる運命! だよねー☆ ねっ。笑ちゃん!」
 そう言うと、こちらに向かってウィンクを飛ばした。
 ――う、うゎ――――! すっごく微妙な気持ち! ていうか、完全なる運命……って……。
「そして七夕が真ん中ばーすでぃ! ヒロ君とー、笑ちゃんと私! 3人の完全なる運命みたいじゃん!」
 キラキラした瞳で私と森を見てくる。
 ――……うん。私はね、1年に1度出会える織姫と彦星の運命の日が七夕で、その日が真ん中バースデーの私と森は……。みたいな、ちょっと恥ずかしいこと考えてたんだけどね。
 運命。
 たしかに、着ぐるみ理事長と私が同じ誕生日だっていうのも、なんだかすごく(嫌だけど)運命みたいだな。とは思う。
「……ぶっ」
 いきなり隣で森が吹き出した。
「な、なんだね! いきなり!?」
 着ぐるみ理事長も驚いたようで、赤くなって森を見ている。
 森は笑って言った。
「いや――単純におもしれーなって。うん、運命だな。うん」
 なにかツボにはまったのか。森は笑いを堪えながらそう言った。
「な、なんだよー。べ、別に恥ずかしくないし! 運命だ! …………ごほん。えーっと、それでね。せっかくだから、みんなで短冊書きたいなって思ったわけです」
 着ぐるみ理事長が、生徒玄関に飾ってある立派な笹を指さして言った。
 イベント好きな着ぐるみ理事長のせいだろうか。そうだろうな。
 1週間ほど前から、生徒玄関には笹が飾られていた。そこには机も一緒に置かれていて、その上には、もちろん短冊とペンが用意されている。
 七夕前日なだけあって、もういくらか短冊が飾られていた。時期が時期だけに、『テストでいい点がとれますように』といったものが多かった。ほかには、あれが欲しいやら、恋愛ごとのお願いもいくつか見受けられた。
「短冊――お願い事かぁ」
 短冊の形も普通のものだけじゃなくて、ハートや星型なんてものもあった。
 私は星型の短冊を手に取った。
 ――なにを書こうか? 毎年書いてるけど、家族の健康かな。あとは……。
 ちらりと森のほうを見る。
 森は普通の短冊に、あっさりと願い事を書いていた。
『金が欲しい』
「夢がなさすぎるよ、ヒロ君!?」
「別にいーだろ」
 もう飾っている……。
 小さくため息をついて、『家族がいつも健康でありますように』と書いた。
「あー笑ちゃんは、なんだ。優しいな……」
「着ぐるみ理事長はなんて書くんですか?」
 笹に短冊を飾りながら、私は着ぐるみ理事長に尋ねた。
「私? 私は――そうだなぁ」
 さらさらとペンを走らせる。
『来年は七夕に天の川を見ながらプレゼント交換がしたい』
「なんですか、それ」
 おもわず苦笑いを浮かべる。
「えー? だって、なんかいいじゃん。ロマンチック的な」
 ふくれっ面でそう返してくる。
 わざわざ書くことじゃないと思った。だって、着ぐるみ理事長なら――
「ここで、今、そう約束すればいいじゃないですか。ていうか、着ぐるみ理事長なら、いつも無理矢理そうやって引っ張ってっちゃうでしょう?」
「……そうかもね!」
 着ぐるみ理事長が笑った。
 私と森も、顔を見合わせて笑った。
「でも、今年はプレゼント渡しちゃったし、ヒロ君はプレゼント用意してるわけないだろうし、難しいね。2人とも、来年は絶対だよ!」
「はい。約束しましょう」
 そう言って、小指を立てた。

「……もう1枚だけ、書いてきてもいいですか?」
 生徒玄関を出ようとしたとき、私は2人にそう言って引き返した。
 ハート型の短冊に、もう1つだけ願い事を。
『ずっと一緒にいられますように』
 ――みんなで、ずっと一緒に。


 ちなみに、森への誕生日プレゼントは、ペンとペンケース。いろいろ悩んだんだけど、無難なものを。それなりにいいものを選んだつもり。
 着ぐるみ理事長からはちょっとお高いお菓子を渡したらしい。
「笑ちゃんに悪いから、残らないものを選んだんだよ〜」
 だってさ。
 そして、同じ誕生日とはいえ、知ってしまったからには渡さないと申し訳ない。
 着ぐるみ理事長への誕生日プレゼントは、うん、まぁ、お菓子でいいかなって。ハート型のマカロンが売ってたから、それで。考えるの面倒だったわけでは、決して!
 代わりに、私は誕生日にかわいいブレスレット貰ってしまった。なんだかさらに申し訳なくなった。
 ――森?
 ……うん。森からも、ちゃんとお返し――というか、誕生日プレゼント貰ったよ。かわいい猫のストラップ。
 すごく、すごく嬉しいけど。1つ不満なのは――着ぐるみ理事長とお揃いってことかな?
「笑ちゃん! 痛い! 視線が痛い! 怖い!」
 ――まぁ、しょうがないけどね。
 でも、貰えるなんて、正直思ってなかったから。本当に幸せだって思った。

「『ずっと一緒にいられますように』――か」
 来年も、その先も、ずっと一緒に。