グローリ・ワーカ   第19章:ずっと傍にいる

「……アレ? 私、どーしたん……?? なんか暗い場所にいたような……?」
「マアァァァッッ!!!!」
 ゆっくりと起き上がったマニュアに、ティルが間髪入れず飛び付いた。
「ぐほぁっ!! ……ちょっ……! ティルちゃぁぁん!?」
 マニュアが何事かと驚く。
 しかし、なんだか飛び付いてきたティルの様子がおかしい……? ……どうやら、泣いているようだ。
「え? あ…………」
 そして、ようやくマニュアは自分が死んだはずだということに気が付いた。
「う……うぅっ……。マー……」
「ティルちゃん……。そうだ……。私、死んだハズなのに、なんで生きてるの? もしかして、ゾンビ!?」
「え……?」
「ゾ、ゾンビィ!?」
 マニュアがふざけて言った言葉に、本気で怖がる(ドン引く?)一同。
「いや、ドン引かないで! こらこら、そこ。後ろに下がるな」
 マニュアがアリスに向かって指を差した。
「アハハ〜」
「笑ってごまかすなぁ! 全く。……で、どうして生き返れたの、私!?」
 その言葉に、戻りつつあった和やかな雰囲気が、また一瞬にして暗いものへと変わってしまった。
「……え…………」
 みんなの視線の先へと、視線を移す。
 その先に見えたもの、マニュアの瞳に映ったものは――、
「う、うそ……!? ……シリア…………!?」
 驚きと悲しみとショックが入り混じって、マニュアの心を支配した。
 よろよろとシリアに這い寄る。自分の手が血に汚れることも厭わず、マニュアは彼女を抱え起こした。
 そして、シリアに向かってなにか呟き出した。それに気付いたニールが慌ててマニュアの腕を引っ張る。
「バカッ! やめろ!」
「でも、シリアが――!」
 復活の呪法で助けてくれた相手を、また復活の呪法で生き返らせようとしている――。
 意味のない行為を、マニュアはしようとしていたのだ。
「私のせいでシリアが……! たす……助けなきゃ……!」
 そう言って、また手を伸ばそうとする。その時!
 パーン!
 いい音が響いた。
 ティルがマニュアの頬を平手打ちしたのだ。
 マニュアは驚いた顔でティルを見つめた。ティルが涙を浮かべながらマニュアを睨んでいる。
「シリアが……どんな気持ちで…………っ!! ――私たちだって、シリア助けたかったよ! でも……! だけど、ここでマーがまたそれで生き返らせちゃったら……! シリアの気持ちを無駄にしてどうするの!!!!」
 そう訴える。
「私たちだって、助けようとしたけど……でも、ダメだった……」
 アルトが呟くように言った。
「――……たぶん、あいつは嘘を教えたんだと思うぞ」
 ヤンがぼそりと言った。
「……!? どういうこと!?」
 ティルがヤンに詰め寄った。マニュアはよくわからないといった表情を浮かべている。
(ていうか、それより、あれヤンなのか……。完全なる狼になっとるやんけ……)
 ヤンは少し困ったように答えた。
「みんな気付いてなかったかもしれんが、最後の方、一部文が違ってた気がするんだ。あいつが唱えてた呪法と」
「「「「「「「え!?」」」」」」」
 みんなの声がハモる。
「気付いたならなんで言わないのぉ!?」
 ティルが怒った様子で今度はヤンを訴えた。
「唱えてる時に気付いたんだよ! しかも、もう最後の方だったから止める暇もなかったんだ。……だから、あいつは最初から俺たちにこの呪法を使わせる気はなかったんだ。やっぱり自分だけが犠牲になるつもりだったんだろうな」
「そんな…………」
 その言葉に、ティルもがっくりと膝を付いた。
「……シリア…………。シリア……」
 横たわるシリアを見つめて、その名前を呼ぶマニュア。繰り返し呼んでみても、返事などもうなかった。
 シリアの肌は土気色で、その一部は対照的に鮮やかな紅に染まり、もう開くことのないだろう唇は青紫色に変色していた。
 マニュアは自分よりも少し小さな、もう動かないその手をギュッと握った。
「ごめん……! 私が悪いのに……。……いつも自分勝手な私が……」
「「「「「「「「そのとおりかもしれないねぇ」」」」」」」」
 みんなの声が再びハモる。
「って、おまえらひどいな!! ここは慰めるのが普通じゃないんか!?」
 ギャグの流れに戻ってほっとするのだった。
「ほっとしてるのはあんただけだー!!」
 え? まじで?
「ヤメロ。大切な妹の……こんな時まで茶化すのはヤメロ」
 スミマセンデシタ……。
「……マニュちゃん。シリアちゃんがマニュちゃんに伝えてって、私たちに託してった言葉」
 アルトが教えてくれた。

「お姉ちゃんに伝えて。今度こそ、もう迷わないから。ずっと傍にいるって」

「せっかく、傍にいるって言ってくれても……シリアが生きてなきゃ、意味ないじゃない……!」
 悔しそうな表情で涙を流す。
 ニールが(スリムの差し金で)そんなマニュアの頭を優しくぽんぽんと撫ぜた。
 それに思わず、ニールにしがみついて声を上げて泣いてしまったのだった。