――ザー……――

 --ザz…--
    --noise--

  --grgrgrgr--
     --Χαοσ--





  灰色幻想奇譚





 モノクロの部屋に夕焼けの光がノイズのあるテレビの横からカーテンをすり抜けて。
 流れてくるのはザーザーというそれと、薄い白い光です。
 時計は壊れてしまったので、もう音はしないのですが、多分西の窓が明るいので夕方です。
 膝を抱えて見たのは、天井なのですけど。
 そのうちその扉の向こうから、黒い影がやって来ます。
 だんだん薄暗くなって、闇に融けて消えていきます。しかし、見えなくなるだけです。
 唯一の灯りは灰色のテレビだけで、僅かに影の足を映し出します。
 今日も同じ日でした。明日も同じ日でしょう。
 影がするりと腕を巻いてきます。首に爪を立てて、泣いています。
 全ての物を壊したいので、私は金槌の方が都合がいいのですけど。
 赤く染まっています。例え痕が残ったとしても、明日には消えています。
 まぁたまには雨の日もありです。


   --ノイズ--
      --ノイズ--
     --ノイズ--

    --ノイズ--

        --ノイズ--


 混沌、混沌と。
 ザザザザ、途切れ途切れに。
 白と黒は渦を作り、灰色に混ざっていきます。
 その隙間は、化け物の時間。
 そっと瞼を閉じれば、裏側に見えるかもしれません。貴方にも。
 背後に迫る、狂気と闇と怨念と、誰かの涙を。そっと聴くだけしかできません。
 それ以上先に進んではいけません。なぜなら、帰れなくなります。
 今居る場所から、目を開けて、さぁ帰りましょう。
 嘘の世界は、要りません。どれが本当なんて、もう判りませんけれど。
 最初から居た場所も、もしかしたら間違っていたのかもしれないけれど。
 灰色を塗り替えて。
 そのノイズを流すテレビを壊して、投げ捨てて。五月蝿いばかりのラジオも蹴り飛ばして。
 終わりを告げる空へ、開け放てば、少しは心も晴れるでしょう。
 そう。もしかしたら、世界は最初から壊れていたのかもしれませんけれど。


   --ザザ……--
      --ザ…ザ……ザ……--
     --ザ……--

    --ザ……ザ…--

        --------

 -- ? --




 ほら、もうとっくに雨は止んでいるでしょう。
 ノイズは止まり、灰色ももう終わり。
 カップを置いて、カーテンを開けましょう。もう夕刻から陽も沈みかけていますが。
 雨の降った土曜日の昼下がりに、


 実際には甘いコーヒーを飲んで座っていただけでした。




 タイトルは『カオス』と『ノイズ』と『灰色幻想奇譚』の3つの候補がありましたが、最後のやつがなんとなくかっこよくて気に入ったので(笑)
 意味はありません。雰囲気です。


――――2013/03/17 川柳えむ