ひので町コント   5丁目:日和くん

 5丁目に住む日和(ひより)くん。
 彼は今日も元気に学校へと向かう。

「よー。大輝!」

 途中でクラスメイトで友人の大輝を見かけ、声を掛けた。

「おぉ、日和。おはよう」

「大輝、昨日のテレビ見たか? あのアイドルグループってさー」

「あぁ見た見た。正直アレだよな」

 いつものくだらない話をしながら校門を抜ける。と、そこには!
 いつもとは少し違う風景が待っていた。

「ホラホラさっさとカバンの中を見せろ! 逆らう奴は許さんぞ!」

「――……っちゃぁ〜……。朝からメンドクサイことやってるよ」

 生徒会の面々が、玄関前で荷物検査をしていた。
 この学校の生徒会はとても厳しく、こんな風に抜き打ちで荷物検査、服装検査はよくあることだった。

「めんどくさいし、見つからないように裏から回ってこー」

 心底面倒だと思った日和が、そう大輝に声を掛けた。
 そうして、2人でこっそり逃げようとしたところ……。

「くぉらぁ! おまえ達! 何逃げようとしてるんだ!!」

 真面目で熱い生徒会長に見つかってしまった。
 あぁ、ツイテイナイ。
 こいつは厳しい生徒会の会長なだけあって、細かいしうるさい。

「逃げようとしたな〜。おまえらのはじっくりちゃんと検査してやる。さぁ! カバンの中身をぶちまけろ!」

「あぁもう」

 大輝が渋々カバンの中身を見せた。

「ふむふむ。教科書に筆箱に……特に問題は――っと、これは何かな?」

「あ」

 そうだ。今日は友人に借りていた漫画を返そうと、1冊だけ入れていたんだ。
 それを生徒会長が見つけてしまった。

「没収だな」

「やめてください! 困ります! それは友達に返さなきゃいけないもので――」

「学校に不要なものを持ってくるのが悪い! 没収すると言ったら没収する!」

「そんなぁ……」

 がっくりとうなだれる大輝。
 そんなものは無視して、生徒会長は今度は日和の方へ向き直った。

「さぁ、次はおまえの番だ! カバンを出せ!」

「えー」

 口を尖らせながらもカバンを出す。
 それを生徒会長がひったくるようにして開けた。

「まず、週刊少年ジャンデー……って、いきなり校則違反じゃないか!」

「えー? 週刊少年ジャンデーを持ってきちゃいけない校則なんてあったっけ?」

「学校に不要なものは持ってくるなと書いてあるだろう!」

「俺にとっては必要だし」

「学校からしてみれば不要だ! 没収! 次! 携帯ゲーム機! 没収!」

「没収したら弁償してね」

「なんでだ!? 次! 音楽プレーヤー! 没収!」

「音楽聴いてた方が勉強はかどるじゃん」

「授業が聞こえないだろう!? 次! けん玉! ……けん玉!?」

「けん玉ですが何か」

「なんでけん玉!? 没収! 次! テレビのリモコン! なんでリモコン!?」

「そりゃテレビが入ってたらびっくりだよ」

「そうだけどそういう話じゃない! 没収! 次! 魔法少女隊プリティキューティーのストロベリーちゃんのフィギュア! 没収!」

「会長詳しいね」

「……次! 本、他人の心の操り方! なんか怖いもん読むな、おまえ!」

「怖くないよ。勉強だよ」

「危険思考だ! 没収! 次! 出刃包丁! って本当に危険だ!! 銃刀法違反じゃないのかコレは!!」

「最近料理にはまっててさ〜」

「没収! 次! やかん! なんのために!?」

「だから最近料理に〜」

「必要ないだろ! 包丁とやかんってどんな組み合わせだ! 没収! 次! 枕! おまえは授業中に寝る気か!」

「睡眠学習」

「没収! 次! アイロン! なんでだああああ!!」

「Yシャツにアイロンかけなきゃ。主夫の鑑!」

「家でかけてこい! っていうかもう着てるだろ! 没収! 次! ノートパソコン! 今までに比べると普通!」

「会長ってば何を期待してるの?」

「没収! 次! プリンタ! って、でかぁ!」

「そういえば印刷したいものがあったなーって」

「こんなでかいのどこに入ってたんだ!? 没収! 次! ハト! って生き物ぉ!!」

「ハトのピーちゃんです」

「くるっぽー」

「もう、おまえのカバンはマジシャンの帽子か! 没……収!? 次! 風船!? しかも既に空気入ってる!」

「風船って夢があるよね」

「よくわからんが既に空気が入っている風船をどこに入れてたんだ! そもそもなんでこんなにいろいろ入ってるんだ!? 明らかに容量オーバーだろう!? 四次元バッグか!」

「カバンには夢がいっぱい詰まってるんだよ」

「そんな言葉で片付けられるか――――――――――っ!!?? って、まだ出てくるぞ!? 次……さっきと色違いの風船!?」

「うん。夢が詰まってるからね」

「って、まだ風船出てくるー!? マジでどうなってんだおまえのカバン! まだまだ、風船風船風船……!」

「あっはっは〜」

「笑い事で済むことじゃない!! 勉強道具1個もないし、違反物だらけだし、風船が異常に入ってるし!」

「あ、会長。そんなに風船出しちゃったら危険」

「――って。え、え、えぇぇ!!??」

 大量の風船を持った生徒会長の体が宙へと浮かび上がる!

「うわああああああああああぁぁぁぁ……」

 こうして、生徒会長の姿は悲鳴を残して空の彼方へと消えていってしまいましたとさ。

「会長、あでゅー」

「えぇぇぇぇ!!?? 良い子は絶対マネしないでください、マネできないだろうけど!」

 慌てた大輝のフォロー。

「まぁ会長は大丈夫だよ。いつもなんだかんだで戻ってくるし」

「日和、ナイスー」

「いつもさんきゅー。これで無事に教室行ける」

 周りの生徒達が笑顔で日和に声を掛けた。
 そう、このやりとりも最近ではだんだんと見慣れたものになってきていた。

「大輝も。友達に借りてる漫画を回収して、早く教室行こう」

「あ、あぁ。ありがとう」

 さぁ。今日も1日、いつもの日常が始まる――。


「って、なんとなくいい話にまとめようとしてるけど、俺は騙されない! 騙されないぞ!? ツッコミどころ多過ぎるの見過ごせないからな!?」

「えー? 大輝ってば細かいナァ。騙されようよ」

「細かくないぞー!? あと、割と普段被害受けてるのは実は俺だったりするんだからな!? ていうか、おまえと一緒にいるから俺まで目を付けられたりするわけで!」

「えー……? じゃあ、俺と一緒にいたくない?」

「え? いや、別にそういうわけじゃ……」

「良かった。俺、大輝に嫌われたらどうしようかと思った」

「日和……」

 キラキラキラ。

「ボーイズ☆ラブ!」

「だ・か・ら、俺を巻き込むなああああああ――――――――――ッ!!!!」

 つづく!(この日常が)