寒い冬のある日。
 1人のアパートの部屋の中。

 包丁を持ってうろつく者。

 部屋には僕だけのはずだった。
 けれど、そこには、確かに――。





  包丁、ラジオ、僕。





 影がゆらり、揺れる。
 引き戸をずらして、そっと様子を窺う。

 そこにはいない。

 でも、確かにいるんだ。
 なにかの、気配は。
 そろりそろりと、そこを這う。

 ――どこ?

 押入れの上?
 隠れている……?

 包丁を持って、うろうろ……。

 逃げる。
 僕は逃げる。
 安全な場所はドコダ?

 何かがいる。どこかにいる。
 怖いコワイ。

 1人、部屋の隅で膝を抱えていたよ。
 どこからやって来るのか、片目で覗きながら。

 ゆっくり、引き戸が、開かれる。

 その向こうに、キラリと光る、片方の目。
 そして、その全てを、静かに現した。

 手に持つものは――包丁。

 いつの間に手にしたか、僕も同じものを持つ。

 殺される前に――振り下ろす。
 何度も、何度も。


 ラジオから微かに流れるノイズ。

『――……本日、――ザザッ――……で……があり――……人、死亡――……。なお、現在――……。……また、……により……ザザッ――』


「アハハハハハハハハ!」

 笑う。そいつは笑う。
 血まみれで僕を見る。

 叫ぶのは僕。

 血まみれの姿の僕。
 そいつは、僕の姿。

 殺したはずの、そいつ。僕の姿。

 怖くなって、また逃げ出す。

「逃げるなよ!」

 横たわったそいつが言う。

「また逃げるのか!」

「お前にはお似合いだ!」

「アハハハハハハハハ!」

「殺しても殺せないよ!」

「臆病な自分は殺せない!」

「一生ついて回るさ!」

「逃げられると思うなよ!!」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……!」


 背中から声がする。

 もう、何も、見ない。

 僕は、悪くない。


 ほら、そいつは、消えたんだ。
 もう怯えなくていい。
 もう歩き回らない。
 殺したんだ。
 殺すんだ。



 kろろおs。





 。




 本当のタイトルは『部屋に、包丁、ラジオ、僕、だけ。』でした。長過ぎたので短くしました。残念……。
 いやー。なんとなく、怖めの話を1つ作ってみました。
 ラジオから流れるニュースは、この主人公に関係しているのかしていないのかは、自分にも分かりません。なにかやらかしたのかもしれないし、全然関係のないことなのかもしれないし。
 抽象的な物語を書いてる方が性に合ってるのかな……。感覚で書いてるからね。
 ――エレクトロニカ系の曲を聴きつつ。


――――2009/01/06 川柳えむ