かばはくぼ

 僕は馬鹿。対して、君は天才。
 君はそれはもう難しそうな参考書や医学書をたくさん読んで、それはもう難しそうな大学に入り、それはもう難しそうな仕事に就いた。

 僕の母が、当時では不治の病と言われる病気にかかったときも、君が研究を重ねていたその病に効く薬が、ちょうど一般的に使用できるようになり、命を助けてくれた。
 本当に君は天才で、母の命の恩人だ。

 僕は馬鹿なので、そんなすごいことはできなかったし、できたことといえば、入院をしている母のもとへ足繁く通うくらいだった。
 病室でも、母はいつも君を褒めていた。信じていた。
 君が薬を作ってくれることを信じていたから病を恐れていなかったし、実際にその薬を完成させて治してくれたので、いっそう君を褒め、まるで神様のように崇めていた。

 君は天才。
 君は完璧。
 君は素晴らしい。

 対して、僕は馬鹿。

 僕は馬鹿だから、善悪の判断もつかなかった。と言えば、許されるだろうか?
 そんなことを、ナイフを握り締めながら考えていた。




『かばはくぼ』というタイトルには、「君は天才」と(僕は馬鹿なんかじゃない!)という意味をこめました。たぶん、僕の母は君の母でもあると思う。
 また、チラシの裏の束に片足くらい突っこんでそうなお話ができた……。
 しかし。一昨日との、差!!


――――2015/05/15 川柳えむ