エンタメクラブ   Act.2:部員を探せ!

「実は、部員が足りないんだよね」
 ドドン!!

 それは、昨日のこと。
 私――『木谷 笑』はとつぜん見ず知らずの女性に声を掛けられた。
 私に声を掛けてきたその人は、この竜神学園の理事長だという。
 その人――『龍神 絵夢』(別名『着ぐるみ理事長』)の言うことには……私に新しい部の部長をやってほしいだそうで。
 半ば脅されて、私は新しい部――『エンターテインメントクラブ』の部長を務めることになった。
 でも、ま、私が密かに想いを寄せている『森 裕樹』も入部してくれるって言うし……(しかも、副部長をやってくれることになった!)。面白くなるかもしれない。
 そんなことがあった次の日の放課後。
 部活のことについて話し合いたいことがあると、着ぐるみ理事長が私達以外誰もいなくなった教室にやって来た。
 3人で話し合うため、私の席の隣に森が座ると、着ぐるみ理事長は私の前の席に座りこちらのほうを向いた。
 そして、彼女が言った言葉は――

「……はぁ?」
「だ・か・らぁ! 部員が足りないんスよ!」
 ――『部員が足りない』……。
「やっぱりねー……」
 私は深く溜め息を吐いた。
 ……うすうす、感付いてはいた。昨日も同じようなことを言っていたし。
「部活を発足するには、最低5人は必要なんだよねー、たしか。でもまだ3人しかいないでしょ。私と森と着ぐるみ理事長の3人」
 私はそう言いながら、着ぐるみ理事長をちょっと睨んでみた。
 着ぐるみ理事長は、珍しく気まずそうに苦笑いをして、
「い、いやぁー……ねぇ?」
「って、なーにが『ねぇ?』やねん!!」
「『ね』はナ行の4で、『ぇ』は小さいえっスよ」
「『?』を忘れてるぞ――!?」
 私がツッコむ(?)と、着ぐるみ理事長がボケる……の繰り返し。
「あぁ、もうキリがない!!」
 私がそう怒鳴ると、着ぐるみ理事長は、
「あぁ、もうピンがない!!」
「……なんやねん、ソレ――――!?」
「『ピンからキリまで』とゆーじゃないか!!」
「カンケーねぇ――――――!!」
 ――嗚呼、ホントにキリがなひ……。
 そんなやりとりを2人でしていると、森がとつぜん笑い出した。
「……プッ……ハハハハハハッ!!」
「……どわぁ!? び、ビックリしたぁ……。なにがおかしいのよ――!?」
 ……なんて、私は顔を赤に染めながら訊いたけど……そりゃ笑うわな。
「だってよー。おまえら、漫才コンビみたいに息ピッタリだゼー?」
「そ……そう?」
 そう言われたところで、べつに嬉しくもない。
「えー、そりゃあ私達、愛し合ってるもんねー?」
 ――着ぐるみ理事長……またふざけたことを……。
 私が呆れ返っていると、森が真顔になって言った。
「え? おまえらって、そーゆー関係なのか!?」
「……って、信じるなよ――――!!」
「そーなのよ、ヒロ君。これからは私達のことを『夫婦(めおと)』って呼んでね♪」
「呼ぶな――――ッ!!」
 ――はぁ、もお。だから、キリがないんだってば!
 だんだんと疲れてきた私は、もうなにを言われても気にしないことにした。
 しかし、着ぐるみ理事長は調子に乗って、まだくだらないことをほざいている……。
「……いやー……しかし、木谷も変わったな」
「へっ!?」
 とつぜん森が発した思いがけない言葉に、私は目を丸くした。
「だって、昔は木谷、こんな性格じゃなかっただろ? どっちかっつーと大人しかったじゃんか。……ま、たしかにおかしなトコロはあったけど……」
「をい」
「なのに、ココ来て変わったよ。ずっと見てきたけど、明るくなったぜ。よくなったんじゃねーの?」
「え……? そ、そう? ありがとー……」
 私はテレながらお礼を言った。
 ――あー……顔が真っ赤だよー……。
「……ほう、そうか」
「は、ハイっ!? な、なにが!?」
 とつぜんの着ぐるみ理事長の言葉に、私はスーパー動揺しまくりでビクッと反応した(少々混乱中)。
「ヒロ君、君……」
「は!? お、俺か!?」
 ――あ、なんだ。森か……。
「君って、笑ちゃんスキなの?」
「ぶっ!!」
「……ん、なっ、なにを!?」
 森が大きく吹き出した。
 私も真っ赤になりながら、メチャクチャに腕を振り回して否定……イヤ、否定じゃないんだけど……した。
「なんでだよ!?」
 森が顔を赤や青に染めながら、大きな声で訊いた。
 ――ま、そりゃそーよね……。
 森の質問に妙な笑顔を浮かべて、着ぐるみ理事長は答えた。
「だって、今、ヒロ君言ったよね?『ずっと見てきた』ってさ」
「な……っ!? イヤ、あれは、その……!! そーじゃなくて……!!」
 森はもう耳たぶまで真っ赤になって、口ごもってしまった。
 ……って、真っ赤なのはこっちも一緒。なんだか恥ずかしくて、下を向いてしまった。
 着ぐるみ理事長はそれを、なんとも満足そうに見ている。
 ――まったく……この人は……。