エンタメクラブ   Act.4:逃亡者

 翌日。
「あ、笑ちゃん。おはよう」
「茜さん。おはよう……」
 朝、玄関で茜さんと出会う。2人して、一瞬黙ってしまった。
「あ、どうする? 部活のメンバーって……」
 気が重いが、どうにかしなきゃいけない問題を話題に出す。
「そうですねぇ……」
 少し考えるように首を傾げる茜さん。――きっと、昨日、あんなにあっさり入部してしまったことを後悔しているに違いない……。
「あ! そういえば」
「え?」
 私は、ふと、昨日の鬼ごっこをやっている最中の出来事を思い出した。それは、茜さんと教室で会ったときの、そう、草薙 松が言っていたことだ。
「松が入るとか言ってたよ。これで1人ゲットだね」
「え!? 松が!?」
 私の言葉に、茜さんは驚いたように声を上げた。
「え? やだ?」
 おもわず尋ねると、今度は視線を逸らすようにして、
「いえ、いやだってわけでは……その……」
 と、しどろもどろだ。
 ――これは……。
「茜さんって――」
「なんですか!? あ、ホームルーム始まりますよ! 早く行かないと!」
 私の言葉を遮って声を上げると、慌しく教室へ向かう。
 ――まぁ……よくわかんないけど、いいや。とりあえず、松を誘ってみよう。
 茜さんを追い掛けて教室へ。教室へ入るとほぼ同時にチャイムが鳴った。
 担任がやって来てホームルームを進めている間、私はあと3人の当てを考えてみる。正直なところ、私はそんなに友達が多いほうではない。声を掛けられるような人といえば――あとは、茜さんと仲が良く、バドミントン部に入っちゃった、あのあすちゃんくらいかなぁ……? あと2人なんて、ぜんぜん足りないじゃん……。
 考えた結果に落胆する。でもでも、私1人で探す必要なんてないんだもんね。茜さんや森にも相談してみよう。
 ホームルームが終わり、授業が始まるまでの間に、茜さんに声を掛けてみる。
「とりあえず、松に声を掛けようと思うんだけど――」
「え、え。いえ、それは――ほら、サッカー部もありますし、無理じゃないですか?」
 茜さんは言う。
「でも、松が自分から入るって言ったんだけど」
「えぇぇぇぇ!?」
 驚きの声。――そこまで驚かなくても……。
 それにしても、彼女のこの反応はなんなのだろう。やっぱり本当は嫌なのだろうか。
「あのさー……」
 ――そこまで嫌がるなら諦めるけど。そんな話をしようとしたそのとき。
「木谷、千種。松が部活入るってよ」
「おー! よろしくっ!」
 なんともジャストタイミングで森と松がやって来た。本当になんてタイミングなんだ。
 おもわず、嬉しいんだか悲しいんだか困るんだか、微妙な表情をしてしまった。茜さんはそれ以上に複雑な表情を見せてまた声を上げる。
「え、ええええっ! いやいやいやいや、松だってサッカー部ありますでしょうにっ!」
「べつに兼部なんて問題ねーし。茜! これからよろしくなっ!」
 茜さんに向かってVサインを見せる松。
「う、うぇぇ!?」
「とりあえず。これで俺はノルマ達成な」
 森が言った。――はっ! それぞれが1人見つければいいって、こいつ逃げる気だ! しかも、もともと私だって誘うつもりだったのに!
「森ぃーっ! 昨日、相談してくれればいいって言ってくれたよね?」
 森の両腕をぎりぎりと掴んで、笑顔で言ってみる。
 すると、森は青い顔で視線を逸らした。
「……木谷。なんか、おまえ怖くなっ……。い、いや、手伝う。手伝うけどよ……」
「良かったぁー!」
 ぱっと腕を放す。森は青い顔のままだ。
 少し図太くなったかもしれない、私。
「それで、ほかには誰かいる? 全部で4人だから、残り3人でしょ。私があと誘えるのは――あすちゃんくらいしか思い浮かばなくて」
「飛鳥も入部するのか?」
 松が反応する。
「いや、まったく決まってないけど。声も掛けてないし」
 私がそう答えると、森が、
「誰だ?」
 ――って、おい!
「小中も同じだったでしょー! 楊井 飛鳥ちゃんだよ!」
「え? なに、呼んだ?」
 おもわず大きな声を出してしまい、それに気付いたあすちゃん本人が返事をした。
 でも、これは、このタイミングで言うしかないだろう。
「あすちゃんっ!」
「はい?」
 あすちゃんの前へ行き、おもいきって言ってみる。
「部活に入ってください!」
 あすちゃんは驚いた表情をして、それから困ったように、
「え? な、何部? それ以前に、私、バドミントン部に入ってるんだけど……」
 そんなことはわかっている。それでも、人数を増やすためには諦められない。
「それでもいい! 兼部でいい! ぶっちゃけ名前だけでもいい!」
「え。だ、だから、何部なの?」
「エンターテインメントクラブ」
 さらっと言ってみたが、やはりスルーできるわけもなく。あすちゃんは微妙な表情をして、
「え、えんたー……? なにそれ……」
「飛鳥も入れよ!」
 ここで意外な助け舟! 松もあすちゃんに声を掛けてくれた。
「松も入ってるの? ていうか、なにをするの?」
「サバゲーやろうぜ。カードゲームでもいい」
「えぇ??」
 松の言葉を聞いて、頭の上にいっぱい「?」が浮かんでいるあすちゃん。――ゲーム部かよっていう……。
「まぁ、とにかく。入ってほしいなぁ〜」
「そうですねぇ」
 私があすちゃんの左肩をがっしり掴むと、反対側の肩を同じように掴んで、茜さんも言った。
「え? なに、茜も入ってるの……?」
「そんなわけで」
「あすちゃん、入りましょう」
「えぇぇ!?」
 そうして、むりやり入部に同意させる私達であった……。
 ――ごめん。あすちゃん。
 ※注・脅しです。良い子は真似しちゃいけません!