エンタメクラブ Act.6:君は太陽
「待てー! 着ぐるみ理事長ーっ!」
「え、笑ちゃん、戻らないとホームルーム始まっちゃうよー!?」
「この状況で戻れるかぁーっ!」
こっちは半泣きだ。
「うわぁー! サボリなんて! 笑ちゃんを悪い道へ引きずりこんでしまったぁー!」
「そうですよ! 全部着ぐるみ理事長のせいだー!」
そんなやり取りを繰り広げつつ、全速力で追いかけっこを続けた私達は、中庭に出た辺りで力尽きてしまった。
2人して芝生の上に寝転がる。
「みんなの前で、あんなことばらすなんて……酷過ぎる」
「ご、ごめんごめん。監視カメラ見たらテンション上がっちゃってさー。でも、ほら、既成事実っていうか」
「だからって教室でばらす必要ないじゃないですかーっ!」
「えーっと……やり過ぎました、ごめんなさい……」
着ぐるみ理事長は起き上がると、私に向かって土下座をしてきた。
私も上半身を起こして、それを見つめた。
――こう素直に謝るとは、珍しい……。さすがに、着ぐるみ理事長でも本気でやり過ぎたって思ってるんだなぁ。
「……はぁ。もういいです。いまさら、どうしようもないですし。ていうか、この後どうごまかすか考えなくちゃぁ……」
着ぐるみ理事長も土下座していた上半身を起こして、言った。
「もう付き合っちゃえばいいのに」
「って、なんてこと、言うんですかっ!」
「いいじゃん別に」
「よくないですっ!」
しばらく2人してまた言い合う。
お互い好きなことを好きなだけ言って、そうして、言葉が途切れた。
「――なんで……」
おもわず、呟く。
「え?」
「本当に、なんで、私だったんですか……? 私には、部長なんて、そういった大役、向いてないのに……」
このさいだから、すべて吐き出してしまった。
ずっと抱えていた弱音すら。
――エンタメクラブの部長を押しつけられた。私には、ぜったいに無理だって、そう思っていた。ただ、森が――みんなが、一緒にやってくれるということが、楽しそうで。そして、その大役を任せてくれたことは、嬉しくて。でも、やっぱり、今でも悩む。
私は、本当に、この部活をまとめて引っ張っていけるの――?
「――笑ちゃん」
私は項垂れて地面を見つめた。
心地よい風が髪を撫でていく。
……と、とつぜん、着ぐるみ理事長がこんなことを尋ねてきた。
「太陽はなんで太陽系の中心にいると思う?」
その突拍子もない質問に、おもわず顔を上げた。
「え……? と、とつぜん、なんですか……!?」
着ぐるみ理事長は空を指差した。
「太陽が太陽系の中心にいる理由。それはねぇ、輝いてるからなんだよ」
そう言う彼女は、なんとも楽しそうに笑っている。
「輝いて、みんなを照らしているから。だから、太陽は中心で、みんなはそれを囲うように周りで回っているんだよ。――私は、笑ちゃんの中に輝きを見つけたの。それは、今はまだ小さい輝きなのかもしれないけど、きっともっと輝いていける。太陽な笑ちゃんを中心に、みんな回っていくんだよ」
「――――……っ」
――なんて、なんて恥ずかしいことを言うの、この人は!
顔に熱が集まっていくのを感じる。
――私の中に輝きが? そんなもの、ない。わからない。けど、でも――彼女が、そう言ってくれるなら……。
「……まぁ、理事長なんてやってる私のほうがもーっと輝いてるってことなんだけどねん♪」
着ぐるみ理事長が、今度はにやりと笑った。
――まったく、この人は……。
おもわず口許が緩んだ。
「負けませんよ? 着ぐるみ理事長には」
ふっと笑ってみせる。
「――上等」
着ぐるみ理事長も満足そうに笑って、私達はお互いの手の甲を宙でクロスさせた。
「ありがとうございます。……でも」
「でも?」
――それはさておき、やっぱりさっきの教室でやらかしたあれは許せないよねー。今思い出しても許せないよねー。一発くらい殴らせろ☆
着ぐるみ理事長に笑顔でにじり寄る。目の前まで寄ってこられて、着ぐるみ理事長は真っ青な顔をしている。
「ちょ、待って、笑ちゃ…………!」
「問答無用☆」
着ぐるみ理事長は星になりましたとさ。
「こらぁ! おまえら! なにをやってるんだ! ホームルームはとっくに始まってるぞ!」
「って、げっ! 先生!」
怒鳴り声に振り向くと、生活指導の先生が中庭の入り口からこちらへ走ってくるのが見えた。
「ま、まずい! 逃げないと! 怒られる!」
慌てて立ち上がると、先生とは反対方向へと私は走り出した!
「こら待て!」
「ひー!」
「そうだねぇ。まずいねぇ」
「って、着ぐるみ理事長、いつの間に――――――!?」
おもいきりグーパンで吹き飛ばしておいたというのに、いつの間に戻ってきたのか!? 着ぐるみ理事長もなぜか私と並んで逃げていた。
――というかこの人、大学部だし、さっさと戻っちゃえばいいんじゃ……。って、勝手にこっちの校舎入ってたら怒られたりするのかな? 勝手と言っても、理事長だけど。
「まーまー。とにかく、逃げるよー!」
「ちょっと待ってくださいよぉ!」
どこへともなく、私達は走り続ける。
でもまぁ、きっと、これも私が望んだ青春の1ページなのかもしれない。
まだ今日は始まったばかりで、夕方のことを考えるのは早いけれど――さて、今日の部活はなにをしようかな?
「待てー! 着ぐるみ理事長ーっ!」
「え、笑ちゃん、戻らないとホームルーム始まっちゃうよー!?」
「この状況で戻れるかぁーっ!」
こっちは半泣きだ。
「うわぁー! サボリなんて! 笑ちゃんを悪い道へ引きずりこんでしまったぁー!」
「そうですよ! 全部着ぐるみ理事長のせいだー!」
そんなやり取りを繰り広げつつ、全速力で追いかけっこを続けた私達は、中庭に出た辺りで力尽きてしまった。
2人して芝生の上に寝転がる。
「みんなの前で、あんなことばらすなんて……酷過ぎる」
「ご、ごめんごめん。監視カメラ見たらテンション上がっちゃってさー。でも、ほら、既成事実っていうか」
「だからって教室でばらす必要ないじゃないですかーっ!」
「えーっと……やり過ぎました、ごめんなさい……」
着ぐるみ理事長は起き上がると、私に向かって土下座をしてきた。
私も上半身を起こして、それを見つめた。
――こう素直に謝るとは、珍しい……。さすがに、着ぐるみ理事長でも本気でやり過ぎたって思ってるんだなぁ。
「……はぁ。もういいです。いまさら、どうしようもないですし。ていうか、この後どうごまかすか考えなくちゃぁ……」
着ぐるみ理事長も土下座していた上半身を起こして、言った。
「もう付き合っちゃえばいいのに」
「って、なんてこと、言うんですかっ!」
「いいじゃん別に」
「よくないですっ!」
しばらく2人してまた言い合う。
お互い好きなことを好きなだけ言って、そうして、言葉が途切れた。
「――なんで……」
おもわず、呟く。
「え?」
「本当に、なんで、私だったんですか……? 私には、部長なんて、そういった大役、向いてないのに……」
このさいだから、すべて吐き出してしまった。
ずっと抱えていた弱音すら。
――エンタメクラブの部長を押しつけられた。私には、ぜったいに無理だって、そう思っていた。ただ、森が――みんなが、一緒にやってくれるということが、楽しそうで。そして、その大役を任せてくれたことは、嬉しくて。でも、やっぱり、今でも悩む。
私は、本当に、この部活をまとめて引っ張っていけるの――?
「――笑ちゃん」
私は項垂れて地面を見つめた。
心地よい風が髪を撫でていく。
……と、とつぜん、着ぐるみ理事長がこんなことを尋ねてきた。
「太陽はなんで太陽系の中心にいると思う?」
その突拍子もない質問に、おもわず顔を上げた。
「え……? と、とつぜん、なんですか……!?」
着ぐるみ理事長は空を指差した。
「太陽が太陽系の中心にいる理由。それはねぇ、輝いてるからなんだよ」
そう言う彼女は、なんとも楽しそうに笑っている。
「輝いて、みんなを照らしているから。だから、太陽は中心で、みんなはそれを囲うように周りで回っているんだよ。――私は、笑ちゃんの中に輝きを見つけたの。それは、今はまだ小さい輝きなのかもしれないけど、きっともっと輝いていける。太陽な笑ちゃんを中心に、みんな回っていくんだよ」
「――――……っ」
――なんて、なんて恥ずかしいことを言うの、この人は!
顔に熱が集まっていくのを感じる。
――私の中に輝きが? そんなもの、ない。わからない。けど、でも――彼女が、そう言ってくれるなら……。
「……まぁ、理事長なんてやってる私のほうがもーっと輝いてるってことなんだけどねん♪」
着ぐるみ理事長が、今度はにやりと笑った。
――まったく、この人は……。
おもわず口許が緩んだ。
「負けませんよ? 着ぐるみ理事長には」
ふっと笑ってみせる。
「――上等」
着ぐるみ理事長も満足そうに笑って、私達はお互いの手の甲を宙でクロスさせた。
「ありがとうございます。……でも」
「でも?」
――それはさておき、やっぱりさっきの教室でやらかしたあれは許せないよねー。今思い出しても許せないよねー。一発くらい殴らせろ☆
着ぐるみ理事長に笑顔でにじり寄る。目の前まで寄ってこられて、着ぐるみ理事長は真っ青な顔をしている。
「ちょ、待って、笑ちゃ…………!」
「問答無用☆」
着ぐるみ理事長は星になりましたとさ。
「こらぁ! おまえら! なにをやってるんだ! ホームルームはとっくに始まってるぞ!」
「って、げっ! 先生!」
怒鳴り声に振り向くと、生活指導の先生が中庭の入り口からこちらへ走ってくるのが見えた。
「ま、まずい! 逃げないと! 怒られる!」
慌てて立ち上がると、先生とは反対方向へと私は走り出した!
「こら待て!」
「ひー!」
「そうだねぇ。まずいねぇ」
「って、着ぐるみ理事長、いつの間に――――――!?」
おもいきりグーパンで吹き飛ばしておいたというのに、いつの間に戻ってきたのか!? 着ぐるみ理事長もなぜか私と並んで逃げていた。
――というかこの人、大学部だし、さっさと戻っちゃえばいいんじゃ……。って、勝手にこっちの校舎入ってたら怒られたりするのかな? 勝手と言っても、理事長だけど。
「まーまー。とにかく、逃げるよー!」
「ちょっと待ってくださいよぉ!」
どこへともなく、私達は走り続ける。
でもまぁ、きっと、これも私が望んだ青春の1ページなのかもしれない。
まだ今日は始まったばかりで、夕方のことを考えるのは早いけれど――さて、今日の部活はなにをしようかな?