ひので町コント 6丁目:日向ちゃん
6丁目にあるひので高校に通う日向(ひなた)ちゃん。
彼女は朝からユウウツだった。
「はぁ……」
ため息を1つ。HRが始まる前の賑わった教室で、誰に気付かれることなく宙へと吐き出した。
と、そこへ――
「日向ー! 聞いた聞いた!? また日和くん、やらかしたらしいじゃん! 今回は生徒会長を空に飛ばしちゃったらしいよ!」
勢いよくドアを開け、元気いっぱいに1人の少女が飛び込んできた。
「美晴(みはる)……。それ言ってくるの、あんたで10人目よ……」
思わずイライラして美晴と呼んだ少女の頭をギリギリと掴む。
美晴はヘラヘラと笑ったまま言う。
「えー? なんかイライラしてるー? 日和くん楽しいじゃーん。いいじゃん」
「全っ然、よくないわよっ! あいつのせいで、私まで変な人に思われたりするじゃない!」
そんなやりとりをしているうちに、担任がやって来た。
2人とも席へと着き、とりあえずこの話は流れたようだった。
「なんで日向はそんなにしっかりしてるの?」
「へ?」
昼休み。お昼ご飯のパンをもぐもぐさせながら、美晴が日向に尋ねた。
「だってさー! あんたの双子の兄の日和くんはあんなじゃん! 日向はなんか落ち着いててしっかりしてるし! なんていうか、正反対じゃん!?」
「…………」
そう。日向は、この学校1番の問題児と言われている日和の双子の妹だった。
「そういえば、2人のお兄さんの陽二さん? だっけ? その人もなんかおちゃらけてるっていうか、ぶっちゃけニートだって聞いたし。なんで日向だけそんななの?」
更には、ニートである陽二の妹でもあった。
「……なによ。しっかりしてちゃ悪いっていうの?」
美晴を睨みつけて言う。
それを美晴は相変わらずの笑顔で、
「違うよー! 純粋に気になったんだよー!」
そう答えた。
その言葉に、ふと考える。
――あぁ、そうだ。きっかけはあったな。しっかりしようと思ったきっかけ――
日向、3歳。
当時の彼女は、まだひので町に住んでいなかった。
家族と一緒にもっと都会に近い場所に住んでいた。
「仕事辞めてきたぞ!!」
突然、そんな声を上げながら父親が家へと飛び込んできた。
当然、家族は目がテンになった。
父親はそんな家族の様子を気にせず続けた。
「仕事、辞めてきた! 思ったんだよ、俺! 退職金全額+1000万くらい借金して宝くじ買えば、絶対1等とか当たるだろ!? 余裕で金持ちになれるってな!」
なんだその理屈。
家の中に静寂が訪れた。
「あのさ、お父さん。その絶対っていう自信はどこから――」
日向がそう訊こうとしたとほとんど同時に、
「そうか! 父さん、天才だー!」
「やったー! お金持ちだね!」
「あなた! 一生ついていくわ!」
兄、双子の兄、母が絶賛。
「――って、はぁ!?」
日向だけが唯一のツッコミだった。
「はっはっは。そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか」
「さすがにそれだけ使えば当たるよね! 楽しみだなぁ」
「当たったら旅行するー!」
「新しいもっと広くて豪華な家も欲しいわね!」
日向の様子などそっちのけで、盛り上がる家族。
日向は真顔になって思った。
(駄目だこいつら……早くなんとかしないと……)
慌てて祖父母の家に電話をし、
「おじーちゃん、おばーちゃん! 大変だよ! もしかしたら家売ってそっちで暮らすことになるかもしれない! ていうか、助けて!!!!」
――というわけで、一家は宝くじを外してすっからかんになり、家を売って祖父母の住むひので町へと越してくることになったのだった……。
なんて過去が人様に話せるわけもなく。
ただ一言、
「あの家族じゃそうならざるを得ないのよ……」
と、ひどく遠い目をして言うのだった。
6丁目にあるひので高校に通う日向(ひなた)ちゃん。
彼女は朝からユウウツだった。
「はぁ……」
ため息を1つ。HRが始まる前の賑わった教室で、誰に気付かれることなく宙へと吐き出した。
と、そこへ――
「日向ー! 聞いた聞いた!? また日和くん、やらかしたらしいじゃん! 今回は生徒会長を空に飛ばしちゃったらしいよ!」
勢いよくドアを開け、元気いっぱいに1人の少女が飛び込んできた。
「美晴(みはる)……。それ言ってくるの、あんたで10人目よ……」
思わずイライラして美晴と呼んだ少女の頭をギリギリと掴む。
美晴はヘラヘラと笑ったまま言う。
「えー? なんかイライラしてるー? 日和くん楽しいじゃーん。いいじゃん」
「全っ然、よくないわよっ! あいつのせいで、私まで変な人に思われたりするじゃない!」
そんなやりとりをしているうちに、担任がやって来た。
2人とも席へと着き、とりあえずこの話は流れたようだった。
「なんで日向はそんなにしっかりしてるの?」
「へ?」
昼休み。お昼ご飯のパンをもぐもぐさせながら、美晴が日向に尋ねた。
「だってさー! あんたの双子の兄の日和くんはあんなじゃん! 日向はなんか落ち着いててしっかりしてるし! なんていうか、正反対じゃん!?」
「…………」
そう。日向は、この学校1番の問題児と言われている日和の双子の妹だった。
「そういえば、2人のお兄さんの陽二さん? だっけ? その人もなんかおちゃらけてるっていうか、ぶっちゃけニートだって聞いたし。なんで日向だけそんななの?」
更には、ニートである陽二の妹でもあった。
「……なによ。しっかりしてちゃ悪いっていうの?」
美晴を睨みつけて言う。
それを美晴は相変わらずの笑顔で、
「違うよー! 純粋に気になったんだよー!」
そう答えた。
その言葉に、ふと考える。
――あぁ、そうだ。きっかけはあったな。しっかりしようと思ったきっかけ――
日向、3歳。
当時の彼女は、まだひので町に住んでいなかった。
家族と一緒にもっと都会に近い場所に住んでいた。
「仕事辞めてきたぞ!!」
突然、そんな声を上げながら父親が家へと飛び込んできた。
当然、家族は目がテンになった。
父親はそんな家族の様子を気にせず続けた。
「仕事、辞めてきた! 思ったんだよ、俺! 退職金全額+1000万くらい借金して宝くじ買えば、絶対1等とか当たるだろ!? 余裕で金持ちになれるってな!」
なんだその理屈。
家の中に静寂が訪れた。
「あのさ、お父さん。その絶対っていう自信はどこから――」
日向がそう訊こうとしたとほとんど同時に、
「そうか! 父さん、天才だー!」
「やったー! お金持ちだね!」
「あなた! 一生ついていくわ!」
兄、双子の兄、母が絶賛。
「――って、はぁ!?」
日向だけが唯一のツッコミだった。
「はっはっは。そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか」
「さすがにそれだけ使えば当たるよね! 楽しみだなぁ」
「当たったら旅行するー!」
「新しいもっと広くて豪華な家も欲しいわね!」
日向の様子などそっちのけで、盛り上がる家族。
日向は真顔になって思った。
(駄目だこいつら……早くなんとかしないと……)
慌てて祖父母の家に電話をし、
「おじーちゃん、おばーちゃん! 大変だよ! もしかしたら家売ってそっちで暮らすことになるかもしれない! ていうか、助けて!!!!」
――というわけで、一家は宝くじを外してすっからかんになり、家を売って祖父母の住むひので町へと越してくることになったのだった……。
なんて過去が人様に話せるわけもなく。
ただ一言、
「あの家族じゃそうならざるを得ないのよ……」
と、ひどく遠い目をして言うのだった。