神様の望んだセカイ Chapter06:現か幻か
適当にめちゃくちゃ走り回って、どこかの公園へと辿り着いた。
ぽつんと置かれていたベンチへと腰を掛けると、息を整える。
「……悪い。避難所見つけて、水でも貰ってこようと思ったんだが――駄目だった」
項垂れて、京太は都に伝えた。
「――なにがあったの?」
京太の様子が違うことに気付いたとでもいうのだろうか。都が尋ねる。
地面を見つめたまま、京太はさぁっと顔から血の気が引いていくのがわかった。
さっきの出来事なんて思い出したくもない。
「…………なんでもない」
そう言うのが精一杯だった。
都はあまり興味がないのか、「そう」と答えただけだった。
やはり、世界は終わるべきなのかもしれない。
あんな屑以下の人間が生きている世界なんて。必要ない。いらない。
彼女だって――彼女の場合は、屑だと思った人間を殺してしまったわけだが――こんな世界はいらないと思っているのではないか。
神様だったら、この世界を終わらせることができるのだろうか。
そう、神様なら――
「水だって――」
「え?」
なにか呟き出した京太を、都は振り返った。
「水だってきっと簡単に手に入るはずだ。俺は、神様なんだから」
突然そんなことを言い出し、京太は顔を上げた。都を振り向くとまっすぐ見つめて、とんでもないことを真顔で話す。
「俺は神様なんだ。そうアイツが言ってた。さっき水を持ってくることはできなかったけれど、きっと水を出すことだってできるはずなんだ」
「なにを言っているの?」
都の言葉など、耳に届かない。
自分は神様なんだ。だから、水を手に入れられる。この世界だって――
「終わらせることができるんだ……」
「そうだ。おまえは神様なんだ」
突然振ってきた声に驚いて、京太はその声のするほうを向いた。
公園の端にある、倒れてしまった大木の上に、そいつは立っていた。
「キョウ……」
京太を「神様」だと教えてくれたあの謎の人物――キョウだ。
「理解したか? 自分の存在を」
キョウが問う。京太はゆっくりと頷いた。そして、都のほうを振り返り、笑った。
「こいつが言ったんだ。俺は神様なんだと。そう。だから、おまえを助けることだってできるんだ」
「……京太」
そこで彼女は初めて戸惑ったような表情を見せた。
「なにを言っているの? 誰もいないわよ」
「…………え?」
キョウを振り返る。たしかに、そこにいるはずなのに。
――都には見えていない?
キョウはただ微笑んでこちらを見ている。
「そんなわけがない。なんで、見えないんだ? あそこにいるだろ? 妙な格好した奴が! 何者かはわからないが……あいつが、俺を……」
都に向かって必死に訴える。しかし、都は相変わらず戸惑っているだけだ。
京太も困惑しながら再びキョウへと顔を向けた。……が、今度は本当に姿を消していた。今の今までいたのに、いったいどこへ消えたのか。
なぜ都に見えていなかったのか。そもそも、彼はいったい何者なのだろうか。あれは自分にしか見えない存在、幻だったとでもいうのだろうか。
それとも、神様にしか見えない――たとえば、ファンタジーでいう精霊の類なのだろうか。
考えても答えは出ない。わからない。
京太は俯いた。
彼は、本当に、存在していないのか。自分がおかしくなってしまったのだろうか。
あれが幻なら――
「……………………俺は……」
――やはり、神様などではない。ただの人間なのだろうか……。
「京太」
都が名前を呼ぶ。ふと我に返り、京太は顔を上げた。
そういえば、彼女が自分の名前を呼んだのは先ほどが初めてだと気付き、なんだか気恥ずかしくなる。
「神様なんて、どうだっていいのよ」
都がとつぜんそんなことを言い出した。
「ただ、今あるこの現実を、まっすぐ前を向いて歩かないと。現実に目を向けないと」
「……………………」
小さな公園の傾いた時計塔。倒れた大木。裂け目の入った道路。瓦礫の山。
起きてしまったこの現実をしっかりと受け止め、今は歩かなければ。
――そうだ。自分達は家に帰ろうとしていたのだった。神様なんて、そんなことは関係ない。
「そうだな。帰ろう」
京太は都に手を差し出した。
都は微笑み、その手をそっと握った。
適当にめちゃくちゃ走り回って、どこかの公園へと辿り着いた。
ぽつんと置かれていたベンチへと腰を掛けると、息を整える。
「……悪い。避難所見つけて、水でも貰ってこようと思ったんだが――駄目だった」
項垂れて、京太は都に伝えた。
「――なにがあったの?」
京太の様子が違うことに気付いたとでもいうのだろうか。都が尋ねる。
地面を見つめたまま、京太はさぁっと顔から血の気が引いていくのがわかった。
さっきの出来事なんて思い出したくもない。
「…………なんでもない」
そう言うのが精一杯だった。
都はあまり興味がないのか、「そう」と答えただけだった。
やはり、世界は終わるべきなのかもしれない。
あんな屑以下の人間が生きている世界なんて。必要ない。いらない。
彼女だって――彼女の場合は、屑だと思った人間を殺してしまったわけだが――こんな世界はいらないと思っているのではないか。
神様だったら、この世界を終わらせることができるのだろうか。
そう、神様なら――
「水だって――」
「え?」
なにか呟き出した京太を、都は振り返った。
「水だってきっと簡単に手に入るはずだ。俺は、神様なんだから」
突然そんなことを言い出し、京太は顔を上げた。都を振り向くとまっすぐ見つめて、とんでもないことを真顔で話す。
「俺は神様なんだ。そうアイツが言ってた。さっき水を持ってくることはできなかったけれど、きっと水を出すことだってできるはずなんだ」
「なにを言っているの?」
都の言葉など、耳に届かない。
自分は神様なんだ。だから、水を手に入れられる。この世界だって――
「終わらせることができるんだ……」
「そうだ。おまえは神様なんだ」
突然振ってきた声に驚いて、京太はその声のするほうを向いた。
公園の端にある、倒れてしまった大木の上に、そいつは立っていた。
「キョウ……」
京太を「神様」だと教えてくれたあの謎の人物――キョウだ。
「理解したか? 自分の存在を」
キョウが問う。京太はゆっくりと頷いた。そして、都のほうを振り返り、笑った。
「こいつが言ったんだ。俺は神様なんだと。そう。だから、おまえを助けることだってできるんだ」
「……京太」
そこで彼女は初めて戸惑ったような表情を見せた。
「なにを言っているの? 誰もいないわよ」
「…………え?」
キョウを振り返る。たしかに、そこにいるはずなのに。
――都には見えていない?
キョウはただ微笑んでこちらを見ている。
「そんなわけがない。なんで、見えないんだ? あそこにいるだろ? 妙な格好した奴が! 何者かはわからないが……あいつが、俺を……」
都に向かって必死に訴える。しかし、都は相変わらず戸惑っているだけだ。
京太も困惑しながら再びキョウへと顔を向けた。……が、今度は本当に姿を消していた。今の今までいたのに、いったいどこへ消えたのか。
なぜ都に見えていなかったのか。そもそも、彼はいったい何者なのだろうか。あれは自分にしか見えない存在、幻だったとでもいうのだろうか。
それとも、神様にしか見えない――たとえば、ファンタジーでいう精霊の類なのだろうか。
考えても答えは出ない。わからない。
京太は俯いた。
彼は、本当に、存在していないのか。自分がおかしくなってしまったのだろうか。
あれが幻なら――
「……………………俺は……」
――やはり、神様などではない。ただの人間なのだろうか……。
「京太」
都が名前を呼ぶ。ふと我に返り、京太は顔を上げた。
そういえば、彼女が自分の名前を呼んだのは先ほどが初めてだと気付き、なんだか気恥ずかしくなる。
「神様なんて、どうだっていいのよ」
都がとつぜんそんなことを言い出した。
「ただ、今あるこの現実を、まっすぐ前を向いて歩かないと。現実に目を向けないと」
「……………………」
小さな公園の傾いた時計塔。倒れた大木。裂け目の入った道路。瓦礫の山。
起きてしまったこの現実をしっかりと受け止め、今は歩かなければ。
――そうだ。自分達は家に帰ろうとしていたのだった。神様なんて、そんなことは関係ない。
「そうだな。帰ろう」
京太は都に手を差し出した。
都は微笑み、その手をそっと握った。