エンタメクラブ Act.1:着ぐるみ、現る
私は憮然とした気持ちのまま、授業を受けていた。
心の底でイラつく気持ちを必死に抑えようとするが、どうしても心を整理することができない。
――森と肩を組んでいたことは……許せ――やっぱりあまり許せないなぁ……。
私はずっと考えていた。
――森が、着ぐるみ理事長に手を振っていたことはまだ許せる……。
私は視線を膝のほうへと落とした。
――でも、なんで!? イヤガラセにもほどがある! 私が森を好きなのを知っていて、なんで目の前で堂々と仲良くできるワケ!? それになんなの? さっきまでは『森君』って呼んでたくせに……いきなり『ヒロ君』なんて呼んでるし!!
ただ、憎悪ばかりが心を蝕んでゆく……。
私は大きく溜め息を吐いた。
そして、ゆっくりと視線を上げた。
――あぁ。私はこんな自分が大嫌いだ。誰かを憎む……この汚れた気持ちが……。
「ものすごい顔してるな、木谷……」
「ハイッ!?」
とつぜん声をかけられ、私はめちゃくちゃ戸惑った。
声をかけてきたのは……先生だった。
「木谷。話をちゃんと聞いていたか?」
「あ……その……。いいえ……」
「話を聞く気がないんだったら、授業受けなくてもいいぞ」
「いえっ……! スイマセン……」
――最悪だ――――――っっ!!
午後の授業が終わって放課後になっても、私は釈然としない気持ちのままぼんやりと席に座っていた。
――ああ、もう。いったいどうしたというんだ、私は。
自分がわからず、むしゃくしゃした気持ちで頭を掻き毟る。ショートの、短い髪の毛がクシャクシャになった。
「はぁ……」
おもわず溜め息を吐く。
――原因の一つである森はさっさと帰っちゃうし、着ぐるみ理事長は来るとか言っといてぜんぜん来る気配ないし……まったく、私はなんてマヌケに見えるんだろう……。きっと、あの出来事以来の私は、とても醜い顔をしているに違いない。……こんなに自分が嫉妬するなんて思わなかった……。
「どーしたの? なんだか元気ないですねぇ。午後の授業でも様子がおかしかったし」
「あ……茜さん……」
いつの間にやって来たのか。
私の席の前には、同じ小中学校で現在はクラスメート、そして中学時代からの友人の『千種 茜(ちぐさ あかね)』が立っていた。なかなかかわいい顔立ちをしており、いつも敬語で喋る癖がある少女だ。
「笑ちゃんは帰らないんですか?」
「……そーだねぇ……」
――着ぐるみ理事長も来ないし、森は帰っちゃったし……私も帰っちゃおうかな?
「うん、私も帰るよ。茜さんも一緒に帰ろ?」
そう言って私は椅子から立ち上がり鞄を手にすると、そのまま教室を出て行った。
帰り道、茜さんが言った。
「今日は、あすちゃんがバドミントン部に行っちゃって、一緒に帰る人がいなかったんです。だから、ちょっと声かけてみたんですよ」
『あすちゃん』とは茜さん同様、同じ小中学校で現在はクラスメート、中学時代からの友人の『楊井 飛鳥(やない あすか)』のことだ。茜さんとはとても仲が良く、家もごく近いので、2人はいつも一緒に帰っている。それでいて、家はほんのちょっとだけ離れているが、実はあすちゃんは私の幼馴染でもあったりする(公園で出会ってからいつも一緒に遊んでいた仲)。
「そっかー。あすちゃんは高校でもバドミントン部に入ったんだよね。茜さんは入らないの? 中学のときは入ってたじゃない。それで、あすちゃんとダブルス組んで、地区大会で優勝したこともあるのに」
私の言葉に、茜さんは苦笑いで答えた。
「高校ともなると忙しいじゃないですか。中学はなにか1つでも部活に所属しなきゃいけなかったから、とりあえず1番得意なバドミントンをやってましたけど……。高校は強制じゃありませんからねぇ」
「うん、そーだよねぇ。高校生になったんだから、もっと好きなことやってもいいもんだよね」
私は彼女の言葉に大きく賛同した。
――そうだ。私だって、もっと好きなことをたくさんやりたい。着ぐるみ理事長は新しい部活のことを、自分の趣味を追及する部活とかなんとか言っていたけど……そんな部活を作らなくたって、時間があれば、自分の趣味なんていくらでも追及していけるんじゃん?
要は、やる気と自由な時間があればいいってことだ。
そんなことを考えていたそのときだった。
「木谷 笑ッ!! 発見んんっ!!」
今日1日でとても聞き慣れた声がした。
――あまり高い声じゃないけど、テンションだけは高そうなこの声は……。
後ろを振り返ると、これまた今日1日で見慣れてしまった姿があった……。
「……着ぐるみ理事長……」
そこには、予想通り着ぐるみ理事長がいた。
着ぐるみ理事長は私のことをキッと睨むと、ツカツカとすごい勢いで私のもとに歩み寄ってきて言った。
「なんで教室にいないのさ!? まったく、学園の外にまで出ちゃって……めちゃくちゃ捜しちゃったよ!」
「そりゃあ、帰ろうと思ったからですよ。着ぐるみ理事長、なかなか来なかったし」
私は冷たい態度で返した。
怒っていることを察してくれただろうか? 察しなくとも、心が読めるのなら、怒っていることなんてわかるはず。
しかし、そこはさすが着ぐるみ理事長。私の怒りを気にする様子はなく、
「しかたないでしょーが、ちょっと用事が入っちゃったんだからぁ!! それに、ヒロ君はどーしたの!? まさか、彼も帰っちゃった?」
「ええ。彼はとっくに帰りました。それじゃあ私も失礼します」
彼女を避けるようにして、私は後ろを振り返り歩き始めた。
「ちょっと! 帰る気!?」
後ろから着ぐるみ理事長が叫ぶ。
私は聞こえないフリをして、そのまま歩いていく。
「イヤならイヤって言いなよ!」
着ぐるみ理事長の声が遥か遠くから聞こえる……。
「素直になれって言ったでしょ!? 私はねぇ……あなたのことを考えての行動を……!」
……そして、いつしかその声は聞こえなくなった。
ゆっくりと後ろを振り返る。
彼女の姿はもう見えなかった……。
私は憮然とした気持ちのまま、授業を受けていた。
心の底でイラつく気持ちを必死に抑えようとするが、どうしても心を整理することができない。
――森と肩を組んでいたことは……許せ――やっぱりあまり許せないなぁ……。
私はずっと考えていた。
――森が、着ぐるみ理事長に手を振っていたことはまだ許せる……。
私は視線を膝のほうへと落とした。
――でも、なんで!? イヤガラセにもほどがある! 私が森を好きなのを知っていて、なんで目の前で堂々と仲良くできるワケ!? それになんなの? さっきまでは『森君』って呼んでたくせに……いきなり『ヒロ君』なんて呼んでるし!!
ただ、憎悪ばかりが心を蝕んでゆく……。
私は大きく溜め息を吐いた。
そして、ゆっくりと視線を上げた。
――あぁ。私はこんな自分が大嫌いだ。誰かを憎む……この汚れた気持ちが……。
「ものすごい顔してるな、木谷……」
「ハイッ!?」
とつぜん声をかけられ、私はめちゃくちゃ戸惑った。
声をかけてきたのは……先生だった。
「木谷。話をちゃんと聞いていたか?」
「あ……その……。いいえ……」
「話を聞く気がないんだったら、授業受けなくてもいいぞ」
「いえっ……! スイマセン……」
――最悪だ――――――っっ!!
午後の授業が終わって放課後になっても、私は釈然としない気持ちのままぼんやりと席に座っていた。
――ああ、もう。いったいどうしたというんだ、私は。
自分がわからず、むしゃくしゃした気持ちで頭を掻き毟る。ショートの、短い髪の毛がクシャクシャになった。
「はぁ……」
おもわず溜め息を吐く。
――原因の一つである森はさっさと帰っちゃうし、着ぐるみ理事長は来るとか言っといてぜんぜん来る気配ないし……まったく、私はなんてマヌケに見えるんだろう……。きっと、あの出来事以来の私は、とても醜い顔をしているに違いない。……こんなに自分が嫉妬するなんて思わなかった……。
「どーしたの? なんだか元気ないですねぇ。午後の授業でも様子がおかしかったし」
「あ……茜さん……」
いつの間にやって来たのか。
私の席の前には、同じ小中学校で現在はクラスメート、そして中学時代からの友人の『千種 茜(ちぐさ あかね)』が立っていた。なかなかかわいい顔立ちをしており、いつも敬語で喋る癖がある少女だ。
「笑ちゃんは帰らないんですか?」
「……そーだねぇ……」
――着ぐるみ理事長も来ないし、森は帰っちゃったし……私も帰っちゃおうかな?
「うん、私も帰るよ。茜さんも一緒に帰ろ?」
そう言って私は椅子から立ち上がり鞄を手にすると、そのまま教室を出て行った。
帰り道、茜さんが言った。
「今日は、あすちゃんがバドミントン部に行っちゃって、一緒に帰る人がいなかったんです。だから、ちょっと声かけてみたんですよ」
『あすちゃん』とは茜さん同様、同じ小中学校で現在はクラスメート、中学時代からの友人の『楊井 飛鳥(やない あすか)』のことだ。茜さんとはとても仲が良く、家もごく近いので、2人はいつも一緒に帰っている。それでいて、家はほんのちょっとだけ離れているが、実はあすちゃんは私の幼馴染でもあったりする(公園で出会ってからいつも一緒に遊んでいた仲)。
「そっかー。あすちゃんは高校でもバドミントン部に入ったんだよね。茜さんは入らないの? 中学のときは入ってたじゃない。それで、あすちゃんとダブルス組んで、地区大会で優勝したこともあるのに」
私の言葉に、茜さんは苦笑いで答えた。
「高校ともなると忙しいじゃないですか。中学はなにか1つでも部活に所属しなきゃいけなかったから、とりあえず1番得意なバドミントンをやってましたけど……。高校は強制じゃありませんからねぇ」
「うん、そーだよねぇ。高校生になったんだから、もっと好きなことやってもいいもんだよね」
私は彼女の言葉に大きく賛同した。
――そうだ。私だって、もっと好きなことをたくさんやりたい。着ぐるみ理事長は新しい部活のことを、自分の趣味を追及する部活とかなんとか言っていたけど……そんな部活を作らなくたって、時間があれば、自分の趣味なんていくらでも追及していけるんじゃん?
要は、やる気と自由な時間があればいいってことだ。
そんなことを考えていたそのときだった。
「木谷 笑ッ!! 発見んんっ!!」
今日1日でとても聞き慣れた声がした。
――あまり高い声じゃないけど、テンションだけは高そうなこの声は……。
後ろを振り返ると、これまた今日1日で見慣れてしまった姿があった……。
「……着ぐるみ理事長……」
そこには、予想通り着ぐるみ理事長がいた。
着ぐるみ理事長は私のことをキッと睨むと、ツカツカとすごい勢いで私のもとに歩み寄ってきて言った。
「なんで教室にいないのさ!? まったく、学園の外にまで出ちゃって……めちゃくちゃ捜しちゃったよ!」
「そりゃあ、帰ろうと思ったからですよ。着ぐるみ理事長、なかなか来なかったし」
私は冷たい態度で返した。
怒っていることを察してくれただろうか? 察しなくとも、心が読めるのなら、怒っていることなんてわかるはず。
しかし、そこはさすが着ぐるみ理事長。私の怒りを気にする様子はなく、
「しかたないでしょーが、ちょっと用事が入っちゃったんだからぁ!! それに、ヒロ君はどーしたの!? まさか、彼も帰っちゃった?」
「ええ。彼はとっくに帰りました。それじゃあ私も失礼します」
彼女を避けるようにして、私は後ろを振り返り歩き始めた。
「ちょっと! 帰る気!?」
後ろから着ぐるみ理事長が叫ぶ。
私は聞こえないフリをして、そのまま歩いていく。
「イヤならイヤって言いなよ!」
着ぐるみ理事長の声が遥か遠くから聞こえる……。
「素直になれって言ったでしょ!? 私はねぇ……あなたのことを考えての行動を……!」
……そして、いつしかその声は聞こえなくなった。
ゆっくりと後ろを振り返る。
彼女の姿はもう見えなかった……。