エンタメクラブ   Act.5:学校の怪談

「では、いってらっしゃーい!」
 1番目のペアを元気良く見送る着ぐるみ理事長。
 1番目のペアとは――茜さんと松だった。
「よーし! じゃあ行ってくるぜ!」
「うえぇぇ……。い、いってきます……」
 元気いっぱいの松とは対照的に、茜さんはあまり乗り気ではないようだった。
 そんな2人の背中が遠ざかっていくのを見つめながら、私は微妙な気持ちになっていた。
「うーん……。なんか……大丈夫かな……?」
「なにがだ?」
 私の独り言に、森が反応した。
「や、なんかさ、茜さん、松のこと好きじゃないっていうか――苦手そう? な感じがするからさ」
「そうなのか?」
「茜さんも松も、小学校から一緒だし。仲良さそうに見えてたんだけどねぇ」
「大丈夫だよー!」
 と、そこへとつぜん着ぐるみ理事長が割って入ってきた。
「大丈夫って……着ぐるみ理事長、まだあの2人のこと、そこまで知らないでしょうに」
 おもわずそう言ってしまう。
 いや、たしかに、彼女は心が読めたりして、ほかの人よりもいろいろなことを知ってしまうことも多いだろうけど。それでも、私は着ぐるみ理事長なんかよりもずっとあの2人と付き合いは長いんだ。それをわかっているふうに言われたくない。
「ん……。なんかごめん。でも、大丈夫。それに、笑ちゃんだって、本当に茜っちゃんが松のこと嫌いだなんて思ってないでしょー?」
「まぁ、そうだけど……」
 茜さんのあの態度は気になるけれど、小学校からの仲だ。心の底から嫌いなんてことはないだろう(と思いたい)。
「――そんなわけで! 次はお待ちかね! 笑ちゃん達の番だよー! さぁ準備準備♪」
「うわー楽しそうだなー」
 着ぐるみ理事長のテンションに、棒読みで返してみる。
 まぁそう返したところで、着ぐるみ理事長にダメージなんて与えられないってわかっているけれど。
 そうこうしているうちに。
「さーて、そろそろ10分経つかな。それじゃあ、お2人さん、いってらっしゃい! 仲良くねー♪」
「一言余計です!」
 そうやって囃し立てるから、みんながニヤニヤしてたり、そんな――微妙な表情で見てくるうぅ!
 戻ってきたら1発くらい殴ってやろうかな。殴っても許されるよね、これ。
「ヒロ、おまえ……」
「なんだよ!?」
 さて、出発――と思ったら、森が葉山に絡まれていた。なんだなんだ?
「ほらーはっちゃん。邪魔しないのー」着ぐるみ理事長が葉山を捕まえる。「さて、今度こそいってらっしゃい」
「い、いってきます……」
 そうしてみんなに見送られ、私達は出発したのだった。

 パタ、パタ、パタ……。
 2人の足音だけが廊下に響いている。私の少し前を、懐中電灯を持った森が歩いていく。
 特に会話もなく、私達は進んでいた。
 ――どうしよう……。2人きりで、会話もなくて……なんというか、気まずい……。
 せっかくの2人きり。こんなチャンス、話しかけるべきなんだろう。でも、なにを話せばいいのかわからない。それに、恥ずかしい。
 1人で悶々と悩む。
 こんなことしている間にも、どんどん部室は近付いてくる。
 部室が校舎の端にあるとはいえ玄関と同じ1階にあるのだから、そりゃすぐに到着してしまうだろう。
 せめて、その前に、たった一言でもいい。なにか話したい……!
「あ、あの……」
「ん?」
 ぴたりと立ち止まり、森がこちらを振り返った。
 私といえば、ようやく声を掛けることができたものの、けっきょく話すことも思い浮かばず無言になってしまった。森の顔を見ることができず、視線が足元を漂う。
「あ、悪い」
「え?」
 とつぜん謝る森に、私は驚いて顔を上げた。
「歩くの早かったか? つーか、暗いのに、後ろ歩いてて大丈夫か? 俺が邪魔で見えにくいとか……あと、もしかして、怖いとか……?」
 予想外の言葉に、私はぽかーんとしてしまった。
 ――森が、気に掛けてくれている。
 そういえば、夜の校舎とか、たぶん、ちょっと怖い状況なのに。森に話しかけるのに必死で、そんなこと忘れてた。
 森の優しさに、そして、そんな自分に、おもわず吹き出してしまった。
「えっ!? ど、どうした?」
「んーん。なんでもない! でも、ちょっと早いし、歩きにくいかも。隣、歩いてもいい……?」
「おぅ……」
 そうして、森と並んで歩き出した。
 ――本当は、はぐれないように、手とか繋げたら嬉しいけど――って、それはさすがに無理! 本当に恥ずかしい! 恥ずかしくて死ぬ!
 でも、少しの間だけかもしれないけれど、今はこれだけで最高に幸せだった。
 部室まで、あと少し――