魔王を倒した勇者の話

 生まれてすぐに勇者と祭り上げられ、魔王を倒す為だけに、来る日も来る日も努力し続けてきた。これまでずっと、魔王を倒す、それだけの為に生きてきた。
 そしてとうとう、魔王を討ち取った。悲願が叶ったのだ。

 人間は恐怖から解放され、世界は平和になりましたとさ。めでたしめでたし。

 勇者は魔王を倒す。それだけの存在。それだけの為に生きてきた。
 魔王を倒したその後は――?
 魔王の命が失われ、勇者はその存在が失われた。
 勇者以外の生き方をしたことがない。もう勇者じゃなくなったこの僕は、これから一体何の為に生きればいい?
 どうして魔王だけが死んでしまったのか。せめて相討ちであれば、こんなに苦しまずに済んだのに。
 魔王がいないと、僕は勇者になれない。
 僕にはもう、何もない。

「僕も一緒に連れていってよ、魔王」
 魔王の死を悼み、ただ涙が止まらなかった。




 某アプリで書いた『これまでずっと』のお題の詳細版です。短編ばっかり書いてるから短くなってしまった。
 ところで、前回のShort Storyが6年半前ってマジですか……?(前回のがラストのつもりで書いたっていうのもあるけど)


――――2023/07/13 川柳えむ