神様の望んだセカイ Chapter04:世界の終わりのよう
歩き始めて1時間。何度か余震にも遭遇した。道がぐちゃぐちゃになっていたせいもあり、進んだ駅の数でいえばまだ2駅ほど。
家まで辿り着くには、まだまだかかりそうだ。
都の後ろを、複雑な気持ちを抱えながらついていく京太。
――いったい、彼女はなにを考えているのだろう? 人を殺してしまって、どう思っているのだろう? 自分のためとはいえ、本当に、それでよかったのか? 俺にはわからない――それでよかったのかも、彼女がなにを考えているのかも。
息を切らして歩く彼女の背中を、じっと見つめながら歩いていた。
その背中が突然ふらりと斜めに傾く。
「新井!?」
京太は慌てて彼女の元へと駆け寄った。顔が真っ青だ。
どうしたものか。とりあえず、彼女を近くの瓦礫の上に座らせ、自分もその横に腰掛ける。
「……大丈夫か?」
都に肩を貸してやりながら、京太は尋ねた。
いろいろあって疲れてしまったのだろうか? どこか痛めたとかでなければいいが。
都は青い顔のまま、薄目を開けて辺りを窺っていた。
「――静かね」
先ほどの問いには答えず、彼女は言った。
「まるで、世界の終わりみたい」
それだけ言って、あとは目を閉じて黙ってしまった。
……本当に、世界の終わりのように、辺りは静寂に包まれていた。今、京太に聞こえるものは、彼女の息遣いとなんだかやけに大きい気がする鼓動の音。それだけだった。
みんなはどこへ行ってしまったのだろうか。
――いや、よくよく耳を傾けてみれば、いろんな人の叫び声や怒鳴り声、行き交う音……さまざまな騒がしい音が聞こえてくる。
けれど、今、2人にとっては、身を寄せ合うこの小さな空間だけが世界だった。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。まず体調の悪そうな彼女をどうにかしなければ。
京太は辺りをきょろきょろと見回してみた。
近くに避難所はあるだろうか? そもそも、この状況で、避難所など機能しているのだろうか。
なににせよ、周辺に避難所らしきものを見つけることはできなかった。
時刻は20時近く。もう夜なうえに、こんな状態の都を置いていくのも気が引けたが、そんなことを言っている場合じゃない。
「ちょっと、誰か探してくる。少しの間、1人でも大丈夫か?」
肩越しに尋ねる。
再び薄く目を開けて、都は小さく頷いた。
京太の肩に乗せていた頭をどかすと、今度は前屈みになって項垂れてしまった。
「悪いな。すぐ戻るから」
京太は彼女の背中にそっと学ランをかけると、その場を後にした。
――そうだ。俺が神様だと言うなら、絶対に彼女を守ろう。どうか彼女に加護を――。
少し歩いてみて、京太は気が付いた。
実は、京太自身も疲れていたのか。まっすぐ歩けず、ふらついていた。
それも当然か。これだけの出来事があったのだから。
気を取り直して歩いていくと、数人の人がなにか話しているところへ出くわした。話を聞く限り、どうやら近くの避難所へ向かっているようだ。
避難所があるのか。しかし、あんな状態の都を、果たしてそこまで連れて行くことができるのだろうか?
とりあえず、京太は避難所へ向かおうとしている人へと話しかけた。
「すいません」
「はい?」
そのうちの1人、気の良さそうなおばさんが振り返った。
「あらまぁ大丈夫? あまり顔色よくなさそうだけど……」
おばさんが心配そうに尋ねてくる。
だが、今は自分のことよりも都のことが心配で仕方がなかった。もし連れてくるのが無理だとしても、せめて水だけでも持っていければ。かく言う自分も、だいぶ喉が渇いている。
「あの、近くに避難所があるんですか?」
「あるわよ。あなたも一緒に来なさい」
そこまで行けば、きっと水も貰えることだろう。その水を与えて、少しでも都の体力が回復したなら、2人でその避難所へ行こう。
そう考え、避難所へ向かうグループに同行することを決めた。
「よろしくお願いします」
京太は頭を下げた。
歩き始めて1時間。何度か余震にも遭遇した。道がぐちゃぐちゃになっていたせいもあり、進んだ駅の数でいえばまだ2駅ほど。
家まで辿り着くには、まだまだかかりそうだ。
都の後ろを、複雑な気持ちを抱えながらついていく京太。
――いったい、彼女はなにを考えているのだろう? 人を殺してしまって、どう思っているのだろう? 自分のためとはいえ、本当に、それでよかったのか? 俺にはわからない――それでよかったのかも、彼女がなにを考えているのかも。
息を切らして歩く彼女の背中を、じっと見つめながら歩いていた。
その背中が突然ふらりと斜めに傾く。
「新井!?」
京太は慌てて彼女の元へと駆け寄った。顔が真っ青だ。
どうしたものか。とりあえず、彼女を近くの瓦礫の上に座らせ、自分もその横に腰掛ける。
「……大丈夫か?」
都に肩を貸してやりながら、京太は尋ねた。
いろいろあって疲れてしまったのだろうか? どこか痛めたとかでなければいいが。
都は青い顔のまま、薄目を開けて辺りを窺っていた。
「――静かね」
先ほどの問いには答えず、彼女は言った。
「まるで、世界の終わりみたい」
それだけ言って、あとは目を閉じて黙ってしまった。
……本当に、世界の終わりのように、辺りは静寂に包まれていた。今、京太に聞こえるものは、彼女の息遣いとなんだかやけに大きい気がする鼓動の音。それだけだった。
みんなはどこへ行ってしまったのだろうか。
――いや、よくよく耳を傾けてみれば、いろんな人の叫び声や怒鳴り声、行き交う音……さまざまな騒がしい音が聞こえてくる。
けれど、今、2人にとっては、身を寄せ合うこの小さな空間だけが世界だった。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。まず体調の悪そうな彼女をどうにかしなければ。
京太は辺りをきょろきょろと見回してみた。
近くに避難所はあるだろうか? そもそも、この状況で、避難所など機能しているのだろうか。
なににせよ、周辺に避難所らしきものを見つけることはできなかった。
時刻は20時近く。もう夜なうえに、こんな状態の都を置いていくのも気が引けたが、そんなことを言っている場合じゃない。
「ちょっと、誰か探してくる。少しの間、1人でも大丈夫か?」
肩越しに尋ねる。
再び薄く目を開けて、都は小さく頷いた。
京太の肩に乗せていた頭をどかすと、今度は前屈みになって項垂れてしまった。
「悪いな。すぐ戻るから」
京太は彼女の背中にそっと学ランをかけると、その場を後にした。
――そうだ。俺が神様だと言うなら、絶対に彼女を守ろう。どうか彼女に加護を――。
少し歩いてみて、京太は気が付いた。
実は、京太自身も疲れていたのか。まっすぐ歩けず、ふらついていた。
それも当然か。これだけの出来事があったのだから。
気を取り直して歩いていくと、数人の人がなにか話しているところへ出くわした。話を聞く限り、どうやら近くの避難所へ向かっているようだ。
避難所があるのか。しかし、あんな状態の都を、果たしてそこまで連れて行くことができるのだろうか?
とりあえず、京太は避難所へ向かおうとしている人へと話しかけた。
「すいません」
「はい?」
そのうちの1人、気の良さそうなおばさんが振り返った。
「あらまぁ大丈夫? あまり顔色よくなさそうだけど……」
おばさんが心配そうに尋ねてくる。
だが、今は自分のことよりも都のことが心配で仕方がなかった。もし連れてくるのが無理だとしても、せめて水だけでも持っていければ。かく言う自分も、だいぶ喉が渇いている。
「あの、近くに避難所があるんですか?」
「あるわよ。あなたも一緒に来なさい」
そこまで行けば、きっと水も貰えることだろう。その水を与えて、少しでも都の体力が回復したなら、2人でその避難所へ行こう。
そう考え、避難所へ向かうグループに同行することを決めた。
「よろしくお願いします」
京太は頭を下げた。